東京国際映画祭出品の猪木主演作は受賞できる?

アントニオ猪木扮する大魔神が老眼鏡をかけて繕いものをするシーンには哀愁が漂う
  • アントニオ猪木扮する大魔神が老眼鏡をかけて繕いものをするシーンには哀愁が漂う

芥川賞作家、映画監督、ミュージシャンと、マルチに活躍する辻仁成が、アントニオ猪木を主演に迎えて撮った新作『ACACIA』。今回、東京国際映画祭コンペティション部門に出品された唯一の日本映画としても注目されている。辻監督が私的メッセージを込めたという本作の仕上がりはいかに?

本作に監督が込めたのは、離れて暮らす前妻・南果歩との間に生まれた息子への思いだ。現在は中山美穂と、その息子と3人で暮らす辻だが、父親として共に時間を過ごせなかった第1子に対しては、彼自身いろんな積年の思いがあると言う。

それを体現したのがアントニオ猪木だ。彼が扮するのは、息子を失った“大魔神”と呼ばれる元プロレスラー。この失意のどん底にある大魔神が、孤独な少年との心のふれあいを通して、人生に希望を見出していく。

辻の監督作と言えば、『ほとけ』(01)や『フィラメント』(02)など、バイオレンスを打ち出した作品の印象が強いが、今回はずいぶんテイストが異なる。特に“闘魂”の代名詞でもある猪木に、“静”の演技で勝負させた辺りがニクイ。劇中では大魔神が大きく平手打ちで借金取りを吹っ飛ばすシーンなども登場するが、メインは哀愁漂う“佇まい”で見せる演技だ。その寂しげな眼の表情が、彼の深い心の傷を浮き彫りにしていく。

また、少年が大魔神とたわむれる無邪気な表情や、いっしょにごはんをほおばるシーンが実にいい。その生き生きとしたシーンを見ると、監督がいかに子役の林凌雅と近い距離でやりとりをしたかが手に取るようにわかる。そして林の姿からは、辻が愛息に抱く思いをしっかりと受け止めたような錯覚を受ける。

本作は監督にとって『目下の恋人』(02)以来7年ぶりの監督作となるが、その7年間で私生活も変わり、彼自身の人生観にも変化が訪れたのかもしれない。その人生の遍歴が映像にも表れていて、そういう意味でも非常に興味深い。

コンペティションの東京サクラグランプリの受賞結果は、東京国際映画祭の最終日の10月25日(日)に発表される。日本映画としても、辻作品の健闘を期待したいところだ。【Movie Walker/山崎伸子】

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