東京国際映画祭で『イースタン・プレイ』はなぜグランプリを受賞したか?

『イースタン・プレイ』カメン・カレフ監督(左)とプロデューサーのステファン・ピリョフ
  • 『イースタン・プレイ』カメン・カレフ監督(左)とプロデューサーのステファン・ピリョフ

第22回東京国際映画祭が10月25日に閉幕。ブルガリアのカメン・カレフ監督作『イースタン・プレイ』が、最高賞の東京サクラグランプリほか、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠に輝いた。今年の映画祭はどんな特徴があったのか? 審査委員長アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの総評をお届け!

イニャリトゥは『アモーレス・ペロス』(99)で同映画祭グランプリを受賞した監督だが、今回自身が審査する側に回って、こんなことを提案したと言う。「ひとつひとつ観客の立場になって観ようじゃないかと。審査するって感じではなく、五感や六感にくるような映画、心が揺さぶられ、観た後で考えさせられるよう映画を選ぼうと」。

そして、その作品こそがカメン・カレフ監督作『イースタン・プレイ』だったと言う。「『イースタン・プレイ』が飛びぬけていて、審査員たちのハートをつかんだんだ」。コンペ部門で審査員が決める賞は合計6つあるが、今回は最優秀芸術貢献賞は該当なし。審査は5つの賞の内、4つが満場一致で決定したという。

『イースタン・プレイ』はカメン・カレフ監督の処女作で、元ドラッグ中毒患者の画家と、彼の反抗期の弟の関係を軸に、不安定な社会で生きる人々を描いた意欲作だ。残念なことに最優秀男優賞を受賞したフリスト・フリストフは、クランクアップ直前に急逝。彼の受賞を聞いた時、カレフ監督はショックだったがとても感動したそうだ。

受賞理由についてイニャリトゥは「映画はリアリティではなく、真実性を見せるものだと僕は思っている。本作ではそれがうまく表現されてたよ」と語った。また、急逝したフリスト・フリストフについても、「彼も天国でこの作品に出演できてよかったと思っているに違いない」と感慨深い表情でねぎらった。

また、最後にイニャリトゥは、東京国際映画祭について熱い思いを訴えかけた。「映画界はいろんな意味で苦しい立場にある。映画づくりが経済的な面を含めて極端になっている。メガプロダクションの映画もあれば、作品が成立しないような低予算で作られる作品もある。また、中身や深さのない作品、シンプルで平べったい物語の映画もある。でも、映画はテレビの延長線ではないんだ!」。

さらに熱弁は続く。「『イースタン・プレイ』で『なんとか立つ力はあるんだけど、立ち続けるための支えをもってない』という台詞があるが、その言葉は現代の映画界を反映してると思う。映画祭は腐敗している映画界における唯一のレジスタンスだ。映画祭で光る宝石を探そうとし、それが見つかったとき、ちゃんとそれを世に送り出せるのか!? シンポジウムなどで語られて終わるのではないかと懸念するよ。ぜひ日本が、東京国際映画祭が映画界をリードしていってほしい。例えば受賞作をぜひ1〜2か月間上映し、多くの方々に観てもらえば、クチコミで広がっていくだろう。それは、映画祭がやらなければいけない仕事だと思う」。

イニャリトゥ、熱い! 実際に東京国際映画祭のグランプリ受賞作で、その後上映されなかった作品も数多くある。彼が言うだけに説得力があるが、なんとも耳の痛い話だ。『イースタン・プレイ』はもちろん、東京国際映画祭の今後の展開も見守っていきたいと思う。【Movie Walker/山崎伸子】

【コンペティション部門受賞結果】 ●東京サクラグランプリ:『イースタン・プレイ』(ブルガリア/カメン・カレフ監督) ●審査員特別賞:『激情』(スペイン=コロンビア/セバスチャン・コルデロ監督) ●最優秀監督賞:カメン・カレフ監督『イースタン・プレイ』 ●最優秀女優賞:ジュリー・ガイエ 『エイト・タイムズ・アップ』(フランス) ●最優秀男優賞:フリスト・フリストフ 『イースタン・プレイ』 ●観客賞:ジェイコブ・ティアニー『少年トロツキー』(カナダ) 

【natural TIFF部門受賞結果】 『WOLF 狼』(フランス/ニコラ・ヴァニエ監督) 【アジアの風部門受賞結果】 ●最優秀アジア映画賞『旅人』(韓国=フランス/ウニー・ルコント監督) ●スペシャル・メンション:『私は太陽を見た』(トルコ/マフスン・クルムズギュル監督) ●アジア映画賞・特別功労賞:ヤスミン・アフマド監督(マレーシア)  【日本映画・ある視点部門受賞結果】 ●作品賞:『ライブテープ』(松江哲明監督)

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