まさにシンデレラ・ストーリー!世界選手権は三原舞依に注目! 【前編】

復帰の舞台は、スケートクラブの発表会

四大陸選手権でのエキジビションより。優勝者に相応しい、美しい演技だった
  • 四大陸選手権でのエキジビションより。優勝者に相応しい、美しい演技だった

昨年の7月、新潟県長岡市でDreams On Iceが開催された。先シーズンに活躍を見せた選手達がオフの練習の成果をファンに披露する、新シーズンの幕開けを飾る恒例のイベント。しかしそこに三原舞依の姿はなかった。関節の病で全日本選手権に出場できなかった彼女は、このイベントには呼ばれなかったのだ。しかし彼女は同じ日程で、長岡市からほど近い新潟市のリンクで復活の舞台に立っていた。昨年にこちらの連載でもご紹介したが、新潟のスケートクラブの発表会という、ローカルな舞台を復活の場に選んだのだ。実はDreams On Iceの取材公開日の翌日がこの発表会だったため、私は旧知の記者、数名に取材に来ないかと声をかけてみた。しかし誰も興味を示さず、結局、発表会で三原舞依の取材をしたのは私一人だった。今となっては信じがたい話だが、わずか8か月前、彼女の評価はそんなものだったのだ。とはいえ正直に告白すると、私もこれほどまでの彼女の活躍を予期できていたわけではない。休養明けとは思えぬ仕上がりの良さに、これは十分に活躍のチャンスがあるのでは、と期待を込めて発表会を見ていただけだった。

その後の彼女の活躍振りは、今更言うまでもないだろう。ネーベルホルン杯での優勝を皮切りに、一気にトップ選手へと返り咲き、全日本選手権では初の表彰台。昨シーズンは出場すら叶わず、「病室のテレビで観ていた」という大舞台で世界選手権への切符を自らっての手でつかみ取ったのだ。

幼少時から三原舞依の演技を見ているが、ノービス年代においてはそれほど目立った存在ではなかった。ノービスAの最終年に全日本ノービスで表彰台に乗ることはできたが、その頃は樋口新葉、そしてチームメイトの坂本花織の評価が高く、三原舞依への注目度はそれほど高いものではなかった。そんな彼女が初めてスポットライトを浴びたのは2014年、全国中学校大会。下馬評を覆し、樋口、坂本を破って優勝を果たした時だった。この時すでに、現在の彼女にも通ずる試合巧者振りが現れていたように思う。集中力が高く、大事な場面でミスをしない。決して華々しい大技を持っているわけではないが、最善の演技を重ねることで、気付けば表彰台の高い位置に上っている。そう、見事な優勝を飾った四大陸選手権と同じ試合展開だ。

2015年は三原にとって飛躍の年になるはずだった。8月、アジアントロフィーが開催されたバンコクで取材した時も、劣悪なリンクの状態など、難しい環境にクレバーに対応する姿が印象的で、コンディションの良さも目を引くものがあった。「全日本ジュニアでは優勝をねらいたい、ファイナルにも出場したい」と前向きなコメントを聞かせてくれた通り、ジュニアグランプリシリーズで活躍を見せ、ファイナルに駒を進めた。が、順風満帆に見えたシーズンが突如暗転する。異変を感じたのは全日本ジュニアの4日前だったという。膝に水が溜まり、足が曲がってしまって力を発揮できない。ファイナルには不調を押して出場したものの、ショートプログラムの後に足がまったく動かなくなるほどだったという。さぞ不安だったことだろう。その時点では原因不明で、“ケアを怠ったための怪我”だと考えていたという。しかし状態は快方へ向かうことなく、ファイナルから帰国後、彼女は入院を余儀なくされる。全日本選手権への出場は叶わず、年が明けてから退院したものの、起き上がるのにも苦労する状態。しばらくは車いすでの生活が続いたという。この状態からわずか数か月で、過酷なフィギュアスケートの試合に復帰を果たすには、並大抵の努力ではなかったはずだ。

病の症状の和らいだ3月頃からようやく氷上練習を再開し、7月には新潟の発表会で新プログラムをお披露目できるまでに回復したことは前述の通り。そしてネーベルホルン杯から快進撃が始まる。続く近畿ブロック、GPSスケート・アメリカ、GPS中国杯、そして全日本選手権。とにかく転倒をしない。細かなミスはあったものの、ほぼノーミスの演技を毎試合続けたことは圧巻の一言だった。どうしてそんなにも安定した演技ができるのか、彼女の答えは常にこうだ。「反復練習の成果です。特に秘訣はありません」。もちろん良い練習ができていることは間違いないだろう。しかしそれだけではなく、病を乗り越えての心境の変化が、彼女のスケートに大きく影響を及ぼしているようだ。

「氷に乗れること、試合に出られることが喜びなんです。人前で滑ることができる幸せ、それを感じられることが私のスケートを支えています」

今季、毎試合のように取材で答える言葉だ。感謝の念を持って滑ることが、以前にも増して集中力を高めることにつながっているようだ。《後編に続く》【東海ウォーカー/中村康一(Image works)】

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