三大映画祭を制した巨匠エミール・クストリッツァ、世界平和に想いを馳せる

舞台挨拶に登壇した巨匠エミール・クストリッツァ監督
  • 舞台挨拶に登壇した巨匠エミール・クストリッツァ監督

『アンダーグラウンド』や『黒猫・白猫』など、世界三大映画祭のすべてで受賞歴を持つエミール・クストリッツァ監督の最新作『オン・ザ・ミルキー・ロード』(9月15日公開)のトークイベント付き試写会が3日、東京・渋谷のユーロライブで開催。現在来日中のエミール・クストリッツァ監督が登壇した。

自身が率いるカリスマ的人気バンド“エミール・クストリッツァ&ザ・ノー・スモーキング・オーケストラ”と共に来日したクストリッツァ監督。前日にスペシャルライブを決行したばかりということもあって、少々お疲れのご様子ではあったが、笑顔で日本のファンの前に姿を見せてくれた。

冒頭の挨拶から「映画は観てもらうことが挨拶だと思うので付け加えることはないのですが、これは私の最新作にして最後の作品……ではないので、次の作品も楽しみにしてもらえれば嬉しいです」と茶目っ気たっぷりなコメントを披露したクストリッツァ監督。

『ウェディング・ベルを鳴らせ!』以来9年ぶりの長編劇映画である『オン・ザ・ミルキー・ロード』は、戦争が絶えない国を舞台に、ミルク運びの男とイタリアからこの国にやってきた花嫁の愛の逃避行を描いたエネルギッシュなコメディ作品。昨年のヴェネチア国際映画祭で上映され絶賛を集めた本作で、監督は自ら主人公のコスタを演じた。

自分で主演を務めたことについて訊かれると「新しい発見といえば、もう2度と自分の作品では主演を演じないということだ」との爆弾発言に、場内は爆笑に包まれる。「監督いうのは観客の代表でなければいけないので、役者と監督の両方を行き来することに苦労した。ビジュアル重視のハリウッド的映画ならばもっと楽だったと思う」と皮肉たっぷりなコメントで再び笑いを誘った。

また、これまで描き続けてきた“紛争”という題材を、本作で終わりにすると表明していることについて「バルカン半島で起こっている紛争を観察し続けたが、今は世の中に戦争映画が溢れているから、もう戦争映画は作らないと言った」と真面目な表情を見せる監督。「ヒューマニスト的な役割を担おうとすると、さらに状況が悪化してしまう。なので、もう自分の役割は終わったと感じている」と、これまで彼が映画で描き続けた母国への想いをしんみりと語り「でも、それによって何の利益も得ていません」とにやりと笑って見せた。

さらに、クストリッツァ作品ではおなじみとなっている、動物たちの見事な演技について、どうやって演技指導しているのかと訊ねられると「人間と同じだよ。食事を与えればいい演技をする」と即座にユーモラスな回答。「観客は、人が殺されるシーンにはもう慣れているが、動物が殺されるシーンには感情的になってしまう。だから、作品の中に感情的なシーンを作るためには必ず動物を登場させるようにしている。辛抱強く時間をかけて相手の動作を見守っていくのだ」と、自身の作品に欠かせない脇役たちへの愛情を窺わせた。

映画を観終わった観客からの質問で、「日本にもシビアな問題が迫っている中で、現実を生きながらイマジネーションを活性化させて方法を教えてください」と問われると、身を乗り出してまっすぐと観客たちに視線を送ったクストリッツァ監督。そして「今は現実とフィクションの境目がわからなくなっているんだ」と、この何年かで激変した世界を危惧した。「芸術としての映画が消えつつあって、テレビにシフトしている。60年代ごろに多くの作家たちが突発的でテレビのような映画を作り始めたのが流れの始まりだと考えてる。映画がフィクションではなくなってしまった」

最後には「僕自身は世界が救われることを望んでいる。たくさんの本を読んで、いろんな情報を得てきたけど、明日何が起こるか僕にもわからない。人類の良い進化が生き残って、悪い進化が消滅していくことを願っています」と、彼の作品の中の世界のように、ユーモアと想像力を持った人々が作り出していく平和な世界が訪れることに想いを馳せた。【取材・文/久保田和馬】

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