クリストファー・ノーラン「観客をだます気は毛頭ない」“本物志向”の原動力とは?

クリストファー・ノーラン監督を直撃!
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新作ごとに圧倒的な映像表現と斬新な世界観で、観るものを驚かせてきたクリストファー・ノーラン監督。第二次世界大戦で起きた史上最大の撤退戦を描く映画『ダンケルク』(9月9日公開)では、自身初となる実話に挑んだ。CGに頼らず、なんと本物の戦闘機を飛ばし、本物の軍艦を使用するなど、徹底した“本物志向”を貫いた。なぜいつも、困難とも思える道のりを選ぶのか?来日したノーラン監督を直撃した。

本作は、第二次世界大戦中の1940年、フランス・ダンケルクの海岸でドイツ軍に包囲されたイギリス、フランス軍の兵士約40万人を救出した、史上最大の撤退作戦“ダンケルクの戦い”を映画化した物語。ノーラン監督は「ダンケルクで起きたことは、人類史上で最大のストーリーのひとつ。生きるか死ぬか、時間との究極の戦いで、ものすごく緊迫した状況だったんだ。私たちはこの映画で、史実に対して敬意を払いつつ、観客に臨場感を味わってもらいたいと思った」と映画への没入感にこだわった。

その言葉通り、観客を戦場に引き入れるような臨場感にあふれた本作。ノーラン監督が初めてダンケルクを訪れたのは、1990年代半ばのことだとか。撤退作戦と同じように、小型船でドーバー海峡を渡ったという。「妻と友達と一緒に、ボートで渡ったんだ。渡った時期は、ちょうどダンケルクの作戦が行われた季節でもあった。作戦が行われた当時、兵士を救うために民間船が何隻も渡っていったという話を聞いていたから、小型船で海峡を渡ることはそんなに難しいことだとは思っていなかった。でも実際は、ものすごく大変だった。なんと19時間もかかった上に、寒くて身の危険も感じたよ。戦地に向かうわけでも、爆弾が降ってくるわけでもないのにね」。

「その体験により一層、あの当時、海を渡った方々に対する尊敬の念も増した。それがこの映画のインスピレーションになっている」とノーラン監督。「そして、その体験があったからこそ、この映画で物理的な大変さを描こうと思ったんだ。セリフにフィーチャーしたり、兵士たちが抱いた希望、野望を描くわけではなく、あくまでも物理的なショックを描こうと思った」と肌で感じた体験を映画に込めたと語る。

撮影の一部も、実際に戦場となったダンケルクで、しかも撤退作戦が行われたのと同じ季節に敢行した。「非常に遠浅で、独特な浜辺なんだ。ものすごく歴史もある。強風が吹き付けるし、かなり高い波が立つ。かなり過酷な環境だ」と撮影自体も、過酷なものとなった。「劇中、兵士が再び浜辺に流れ着いてしまうシーンがある。あのシーンでは、海に雪のような泡が立っている。そのことで、あの場所が厳しい寒さだったことが、ビジュアル的にも伝わるんだ。さらに『また振り出しに戻ってしまったんだ』という失望感や倦怠感も表現することができた。役者たちの芝居にも、いい意味で影響を与えたと思っているよ」と“本物”の与える映画への影響を語る。

ノーラン監督といえば、『インセプション』では360度回転する廊下のセットを作ったり、『ダークナイト』ではビルを丸ごと爆破してみたり、これまでも「どう考えたってCGでしょ!?」というシーンを極力CGに頼らず作り上げ、観客を驚かせてきた。ノーラン監督は「私にとって、常に重要なのは現実にある物。生身の人間でできるだけ撮影すること」と力強く語る。

一体、その原動力となるものは何なのだろう?「私にとって、映画を作り上げる上で一番の推進力となるのは、先人たちのレベルに見合う映画を作りたいという思いなんだ。例えば、デヴィッド・リーン監督が『アラビアのロレンス』を作ったときは、65ミリカメラを砂漠に持ち込んだわけだよね。当然、今よりカメラも大きくて、大変な作業だっただろう。彼にそれができたんだから、我々に言い訳はできないと思う。私には優秀なスタッフがいて、いい機材を使える予算ももらえているわけだから、やらない手はない。いつだって限界に挑みたいと思っているし、観客をだまそうという気は毛頭ない。プロ集団なんだという意識で映画作りに臨み、あくまでも質を保ちたいと思っているんだ」。【取材・文/成田おり枝】

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