【第33回】夜の手みやげは今も昔もこれで決まり!!注文の電話が絶えない「ぎょうざの美鈴」

店は交差点の角に立ち、2方向に入口がある
  • 店は交差点の角に立ち、2方向に入口がある

伊勢神宮外宮から車で5分ほどの宮町に、地元客も観光客も列を成す店がある。昭和30年代、三重県伊勢市周辺に餃子を広めたと言われる専門店「ぎょうざの美鈴(みすず)」だ。

伊勢市に餃子を広めたパイオニア

「ぎょうざの美鈴」が創業したのは1963(昭和38)年。満州帰りの人から伝え聞いた“餃子”という料理を独自に改良し、商いとしたのが、現在代表を務める奥村美佐さんの祖母だ。当時は餃子が今ほど一般的な料理ではなく、伊勢市界隈で初めての餃子店。5、6人が入れる程度の小さな店としてスタートした。

【写真を見る】紅ショウガを添えるのが美鈴流。「ぎょうざ」(480円、持ち帰りは折代として+20円)
  • 【写真を見る】紅ショウガを添えるのが美鈴流。「ぎょうざ」(480円、持ち帰りは折代として+20円)

しかし、店の人気が高まるのに時間はかからなかったという。創業の翌年には東京オリンピックが開かれ、新しい文化が猛烈なスピードで流れ込んできた。東京で最新の文化や流行に触れて地元に戻ってきた学生などを中心に客足が伸び、今と同じ店の規模に拡大。家族そろって携わる稼業となった。

和服に割烹着姿で微笑む、奥村さん(左)と奥野さん(右)
  • 和服に割烹着姿で微笑む、奥村さん(左)と奥野さん(右)

当時から店に立つ、創業者の娘、奥野節子さんに話を聞くと、店のにぎわいには高度成長期を支えたサラリーマンの姿が重なる。夜だけ営業する「ぎょうざの美鈴」の客は、ほとんどが男性客。飲み歩いた父親が、手みやげとして餃子を家庭に持ち帰ったり、遅くまで会社で残業する人が夜食にしたりと、活力に満ちた日本の成長期を支えるメニューになった。

注文を受けてから皮を練る!出来立て餃子

「ぎょうざの美鈴」では、もちろん「ぎょうざ」(480円、持ち帰りは折代として+30円)が看板料理。その大きな特徴は、出来立てへのこだわりだ。注文を受けてから皮の粉を練って伸ばし、手際よく餡を包む。店内中央の調理台で次々と餃子が作られていく一連の流れは、長年磨き上げられた美学さえ感じるほどで、料理を待つ客を飽きさせない。

最大4人が作業台に立ち、餃子作りに専念する
  • 最大4人が作業台に立ち、餃子作りに専念する

キャベツや白菜など野菜が多めのあんであっさりして食べやすいと、子どもやお年寄りにも好評。香ばしくパリッとした面と、しっとりもっちりした食感を残した面、どちらも楽しめる皮の焼き具合も絶妙だ。伊勢のたまり醤油がベースのタレは、酢も加えてあるので何も加えずそのままで。最初に並々と注がれるが、たっぷりと付けておかわりする人も多いという。

最初はお湯を入れて蒸し焼きに。強火から弱火へ火加減を変えながら焼き上げる
  • 最初はお湯を入れて蒸し焼きに。強火から弱火へ火加減を変えながら焼き上げる

もう一つの特徴は、テイクアウトの多さ。注文の電話が引っ切りなしにかかり、焼き上がった餃子が続々と箱詰めされていく。近所の家庭の食卓に並んだり、伊勢みやげとして観光客が遠方へ持ち帰ったり。全国発送が可能な冷凍餃子は、故郷の味を懐かしがる子どもに送る親も少なくないという。

骨付き肉ならではの旨味がたまらない「からあげ」(小430円、大780円)
  • 骨付き肉ならではの旨味がたまらない「からあげ」(小430円、大780円)

メニューは餃子を中心に、創業からほとんど変わらない計6種類。「ぎょうざ」のほかに、「水ぎょうざ」(400円)、「からあげ」(小430円、大780円)、「おにぎり」(さけ、梅、おかかの3個セット480円)、「おでん」(各120円)は創業当時から。唯一、2代目が取り入れた料理が「かにクリームコロッケ」(3個680円)だ。初代から店を継いだのは奥村さんの父、奥野さんの弟に当たる。東京の洋食店に修業に出ていた2代目が店に戻ったとき、これだけは取り入れたいと望んだ料理だ。

握り手のやさしさとぬくもりが伝わる「おにぎり」(さけ、梅、おかかの3個セット480円)
  • 握り手のやさしさとぬくもりが伝わる「おにぎり」(さけ、梅、おかかの3個セット480円)

“少数精鋭”といった印象の料理はどれも逸品ぞろい。三重県産地鶏の骨付き肉を使う唐揚げは、さまざまな部位が取り混ぜられ、食感や味の違いを確かめられる。三重県産コシヒカリをふんわりと握ったおにぎりは、ほかほかでふっくらとして、思わずほっとする味わいだ。

時代を経て変わるもの、変わらないもの

電話を受ける端から、注文の内容が店内に伝えられる
  • 電話を受ける端から、注文の内容が店内に伝えられる

かつては男性客に占められていた「ぎょうざの美鈴」の店内も、最近は家族連れや女性客でにぎわうようになった。以前は深夜まで店を開けていたが、現在は24:00で閉店。営業時間も短くなっている。店に訪れた客から「子どもの頃、夜遅く帰った父親に起こされて寝ぼけながら餃子を食べた」と思い出話を聞くことも多い、と顔をほころばせる奥野さん。なかには通い始めて4代目になると言う、長年なじみの客も出てきた。

店内を見渡すように鎮座する、創業10周年の記念にお客さんから贈られた招き猫
  • 店内を見渡すように鎮座する、創業10周年の記念にお客さんから贈られた招き猫

店の雰囲気は長らく変わっていないそうで、カウンターに20席足らずのコンパクトな造り。今でも黒電話が現役で、注文が入るたびに、やわらかなベルの音が響く。最近では珍しくなった店名入りのマッチが置かれて、女性スタッフが着物に割烹着姿というのも趣がある。

店内はカウンター席のみ
  • 店内はカウンター席のみ

昭和から平成へ世の中はずいぶんと変わったが、「ぎょうざの美鈴」の味と店内に漂うムードは、いつでも昭和30年代の世界へと誘ってくれるよう。昭和を知らない世代にもなぜか懐かしい。味とぬくもりを求めて訪れる人は絶えず、黒電話も休む暇がない。【東海ウォーカー/豊野貴子(エディマート)】

ぎょうざの美鈴
住所:三重県伊勢市宮町1-2-17
電話:0596-28-8602
時間:17:00~24:00
休み:月曜(祝日の場合翌日)
席数:18席※喫煙可
駐車場:2台(無料)、または高柳立体駐車場(無料)
交通アクセス:伊勢自動車道 伊勢西ICより車で8分

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