ジェンダーレスと伝統文化を共存させる先進的な視点『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』[最速レビュー!東京国際映画祭]

現在開催中の第30回東京国際映画祭
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一面真紅の画面に、堂々としたフォントで記されたオープニングクレジット。そして劇中にはポップな音楽が流れつづけ、台北の雑多な夜の世界も、雨の光景も映し出される。どことなく、90年代のもっとも元気な頃のアジア映画、それも香港映画のようなルックを持ったこの作品は、性転換を望む青年アリフを主人公にした群像劇なのである。まるでウォン・カーウァイの初期の作品を観ているような気分になる。

物語は、アリフというトランスジェンダーの青年が、ダンサーの青年クリスに恋をする。ところがクリスには妻がいることを知り、ショックを受けるアリフ。そんなとき、台東の田舎町で原住民の族長として暮らす父がやってきて、アリフに後を継ぐように言ってくるのである。

この映画の根底にはもちろん、近年様々な映画で取り上げられる“LGBTQ”、個々の性的なアイデンティティに関するテーマが存在している。しかし、ただそれを描くのではなく、前近代的な伝統文化とこの現代的なテーマをいかに共存させるか、ということに重きを置く。

そして、どちらかを否定するわけでもなく、どちらもしっかりと肯定するのだ。族長の父親は、現在のアリフの姿を見て驚愕しながらも“娘”になろうとしている息子に歩み寄ろうとしつづけ、理解しようとする。その姿に心打たれる。

監督のワン・ユーリンといえば、監督デビュー作となった『父の初七日』(09)で、突然亡くなった父の葬儀に奔走する家族の姿を、ユーモラスかつ情緒的に描き出した作家である。やはり彼は、家族の映画、その中でも父と子供の関係を映した作品を撮りたい作家なのだろう。

そして、これといって大きな山場が訪れることなく、淡々と流れる登場人物たちの愛の群像。アリフと、同居している女性ペイチェンとの関係をはじめ、クリスとその妻との夫婦関係、そしてアリフを支えてくれるシェリーと、彼女が長年恋慕いつづけるウー。この3組の物語が、もはや性別という隔たりが存在しない世界にいるかのように切り取られ、自然とドラマチックさを増していく。

とりわけアリフとペイチェンの関係の描き方は実に興味深く、もっとしっかりと描いて欲しかったと思う反面、この2人の物語がもっと描かれていたら、本作の“LGBTQ映画”としてのテーマ性はより強くなり、父と子の物語は弱まってしまっていたであろう。実にクレバーな視点を持って構成が練られた佳作ではないだろうか。【文/久保田和馬】

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