アイヌ民具の収集に人生を費やした 萱野茂氏の偉業に感嘆! 

1950年代から約50年にわたってアイヌ民具を集め、アイヌ語の記録にも積極的に取り組んだ故・萱野茂氏。彼の収集品を展示しているのが北海道平取町にある「萱野茂二風谷アイヌ資料館」です。収集品と自ら復元した民具のうち1121点(うち202点が同館の収蔵品)は2002年2月に国の重要有形民俗文化財に指定されています。

資料館はアイヌの工芸品で知られる平取町二風谷地域にあります。敷地が広いせいか2階建ての建物はこぢんまりとして見えますが、中にはアイヌの民具がぎっしり。

衣服から墓標までアイヌ民族の暮らしに必要なあらゆるものが展示されている
  • 衣服から墓標までアイヌ民族の暮らしに必要なあらゆるものが展示されている

現在館長を務めるのは茂さんの次男、志朗さんです。この資料館に収蔵されているものは、海外の少数・先住民族の民具や明治以降の農具なども合わせると3000点以上。その中からアイヌ民具の資料として価値が高いものを2点、志朗さんが紹介してくれました。

平取町荷負本村(現在の貫気別)の倉庫を解体した時に出てきたという200年以上前のイカヨプ(矢筒)。

平取町内には古い家が残り、貴重なものが発見されることも
  • 平取町内には古い家が残り、貴重なものが発見されることも

それにコンカネトゥキ。トゥキ(坏=つき)は本州から渡ってきた漆塗りのものが普通ですが、これはお碗のみ漆塗りで、台座は金属製という珍しい組み合わせです。

儀式の際に使用される
  • 儀式の際に使用される

ほか地域ごとに分類されたアイヌの民族衣装を見ることもできます。いずれもアイヌ文様が刺繍されていますが、並べてみると木綿の生地にじかに刺繍をしている地域、別布を置いて刺繍をしている地域、と雰囲気の違いがわかります。

木綿の着物に黒や紺色の布を置いて刺繍したチカラカラペ
  • 木綿の着物に黒や紺色の布を置いて刺繍したチカラカラペ

茂さんはそもそもなぜ民具をコレクションするようになったのでしょうか。志朗さんによると、茂さん自身の経験が元になっているようです。

茂さんの父親は、ほかの地域に働きに出ていた茂さんが無事に戻ると喜び、イクパスイという神具で火の神にお酒を捧げてカムイ(神)にお礼をしていました。ところがある時帰ると家からイクパスイがなくなっており、カムイへのお礼もできなくなりました。おそらく集落を訪れた研究者に渡してしまったのではないか、と茂さんは話していたそう。この出来事から茂さんは「このままだとアイヌの民具はなにひとつアイヌ民族の手元に残らなくなる」と危機感を募らせたのです。

アイヌ語に関してはもっと切実でした。明治政府による同化政策もあって、アイヌ語を子どもに聞かせないようにする家庭が増え、結果としてアイヌ語が理解できないアイヌ民族が増えていったのです。

「林業の仕事をして、本人は酒も飲まず、たばこも吸わず。生活のための必要最低限のお金以外は、ほとんどを民具の収集とアイヌ語を録音するテープの購入に費やしていたようです」と志朗さんは言います。

茂さんの思いを引き継ぎアイヌ文化の保存に努める志朗さん
  • 茂さんの思いを引き継ぎアイヌ文化の保存に努める志朗さん

茂さんのアイヌ語の録音テープは「萱野茂のアイヌ神話集成(全10巻)」としてまとめられ市販もされています。館内ではそのすべてを無料で聞くことができます。

志朗さんはそんな茂さんの思いを受け継ぎ、大人・子ども向けのアイヌ語教室の運営に携わり、アイヌ語で書かれた新聞、アイヌタイムズも発行しています。茂さんが2001年にはじめたアイヌ語を織り交ぜて放送するミニFMラジオ、エフエム二風谷放送(愛称:FMピパウシ)は現在も毎月第二日曜午前11時から1時間放送しています。

実はこの資料館は同じ建物で2回オープンしています。1972年と1992年です。1972年に茂さんの集めたものを展示して「二風谷アイヌ文化資料館」として開館。1977年には建物と収蔵品が平取町に移管されます。その後1991年に新しく町立の博物館が建てられることになり、旧資料館の収蔵品はすべて新しい博物館へ移されました。それが現在の平取町立二風谷アイヌ文化博物館です。空いた建物に、茂さんの新しいコレクションを展示してオープンしたのが現在の資料館。つまり2つの展示施設をいっぱいにしてしまうほどのものを個人で集めてしまったのです。

2階では世界の少数・先住民族に関する資料も展示
  • 2階では世界の少数・先住民族に関する資料も展示

茂さんは後にアイヌ民族初の国会議員としても活躍します。国の中央にアイヌの状況を訴えた茂さんの功績がまとめられたコーナーもあります。約70年前に茂さんが始めなければ二風谷からすっかり失われていた民具や、伝承もあるでしょう。その情熱と功績を存分に感じてください。

茂さんは後にアイヌ民族初の国会議員としても活躍
  • 茂さんは後にアイヌ民族初の国会議員としても活躍

※文中のイカヨプの「プ」、チカラカラペの「ラ」はアイヌ語表記では小文字に、コンカネトゥキの「トゥ」は「ト」と「゜」を組み合わせた文字になります。

■住所:沙流郡平取町二風谷79-4 ■電話:01457・2・3215 ■時間:9:00~17:00 ■料金:高校生以上400円 小・中学生150円 ■休み:なし ※11/16~4月15日は要事前連絡

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