”職人”な俳優&監督が再タッグ。ダニエル・デイ=ルイス、最後の名演(涙)<連載/ウワサの映画 Vol.33>

名優ダニエル・デイ=ルイス×ポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)監督。2つの希代の才能が「ファントム・スレッド」で10年ぶりのコラボです。成り上がり石油王の惨劇を描いた「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」とは打って変わり、今回は、優美なオートクチュールの世界を舞台にしたラブストーリー。ダニエルのハンサムさを存分に堪能できちゃいますっ。アカデミー賞では作品賞・監督賞・主演男優賞など6部門の候補となり、衣装デザイン賞を受賞。 ”毒”(観てのお楽しみ)を含んだ意外な愛の形が究極にダークかつ、ダニエル&PTAという2人の”職人”の化身ともいえる主人公が最高にエレガント!

少年の時、再婚する母親のためにウェディングドレスを作った主人公・レイノルズ(ダニエル・デイ=ルイス)。それ以来、ドレスしか愛せないようになっちゃったようです…
  • 少年の時、再婚する母親のためにウェディングドレスを作った主人公・レイノルズ(ダニエル・デイ=ルイス)。それ以来、ドレスしか愛せないようになっちゃったようです…

舞台は1950年代のロンドン。オートクチュールの仕立て屋として英国ファッション界に君臨するレイノルズ(ダニエル・デイ=ルイス)は、ある日、ウェイトレスのアルマ(ヴィッキー・クリープス)と出会い、彼女をミューズとして迎えます。しかし、若く情熱的なアルマは、創作者にインスピレーションと癒しをもたらすミューズの立場を超え、恐るべき愛の力でレイノルズの孤高の領域をかき乱し始めるのでした。運命の恋に落ちた2人の関係はやがて狂い始め、”ある秘密”と共に想像を絶する境地へと向かいます…。

アルマ役は、ルクセンブルグ出身のヴィッキー・クリープス。外国人のアルマは、イギリスの階級社会にも臆さず強気。地味なウェイトレスが瞬時にあか抜けるさまはシンデレラのよう!
  • アルマ役は、ルクセンブルグ出身のヴィッキー・クリープス。外国人のアルマは、イギリスの階級社会にも臆さず強気。地味なウェイトレスが瞬時にあか抜けるさまはシンデレラのよう!

…いまだに受け入れられませんが、ダニエルは今作にて「俳優業引退!」を宣言(涙)。「マイ・レフトフット」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「リンカーン」で、アカデミー主演男優賞を3度も受賞(最多記録です)した名優中の名優ですよ!?なんて大きな損失! 彼の役者魂も見納めなわけですが、今作での役作りもすこぶる徹底的で、ニューヨーク・シティ・バレエ団の衣装監督のもとで1年間修業し、裁縫の基本から複雑な立体裁断までマスターしてます。バレンシアガを複製できる腕前になり、すでに熟練の靴職人でもあるダニエル…、ファッションの道でやっていくおつもりか? 加えて、今回は脚本執筆作業にも参加していて、脚本製作と役作りを同時進行させるという並々ならぬ気合に圧倒されます。

生粋のおしゃれさんで、モノづくりも好きなダニエルにふさわしい”最後の役”。毎度のことですが(最後かと思うと一段と…)、全身全霊で役に挑む姿勢に胸が熱くなっちゃいます
  • 生粋のおしゃれさんで、モノづくりも好きなダニエルにふさわしい”最後の役”。毎度のことですが(最後かと思うと一段と…)、全身全霊で役に挑む姿勢に胸が熱くなっちゃいます

ダニエルとの共同作業で脚本を仕上げていったPTA監督。彼も、中途半端なものは世に出さない超凝り性。1970~80年代のポルノ業界が舞台の「ブギーナイツ」から、20世紀初頭の石油産業の活況を描く「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」まで、毎度、場所やセットの本物感を追求し、”その時”を完璧に再現してきました(「ゼア~」では、実際に殺人事件があった豪邸でロケ!)。アメリカの文化や史実を扱った過去作から一転、舞台をイギリスに移した今作は、ヒッチコックの「めまい」や「レベッカ」のようなゴシックロマンスの影響も濃厚な新境地。センシュアルな映像世界を自身の撮影で完成させたほか、1950年代のデザイン全般を研究した50点もの衣装でオスカーをGET!

レディオヘッドのメンバーでもあるジョニー・グリーンウッドによる音楽も印象的な美しさ! 時代背景や衣装にもぴったりで、アカデミー作曲賞にもノミネートされました
  • レディオヘッドのメンバーでもあるジョニー・グリーンウッドによる音楽も印象的な美しさ! 時代背景や衣装にもぴったりで、アカデミー作曲賞にもノミネートされました

度を超えた本物志向が結実した、狂おしいほどに美しく洗練された世界で展開するのが、華麗かつ怪奇な愛の駆け引き。女性を輝かせる仕立て屋の”完璧主義”に魅せられたミューズの執念と、彼女に心を乱される自己完結型の主人公の困惑がもつれ合います。2人の力関係が入れ替わるたびに加速するスリルが絶品で、すべての会話と行動、そして主人公が自分を失うことを憂いながらも”誰か”を求める瞬間から目が離せません。お互いの存在を確かめ合うやり取りは、もはやプレイですね~(笑)。心に生き続ける母親の幽霊を見たり、作ったドレスに「呪われることなく」とメッセージを忍ばせたり…、主人公につきまとう”死の影”が醸すホラーっぽい雰囲気も神秘的でステキ!

レイノルズの公私を管理する厳格な姉・シリル(レスリー・マンヴィル)とアルマは、職場も住居も同じ。女2人の心理戦も加わったピリピリの三角関係がコワい…
  • レイノルズの公私を管理する厳格な姉・シリル(レスリー・マンヴィル)とアルマは、職場も住居も同じ。女2人の心理戦も加わったピリピリの三角関係がコワい…

タイトルの「Phantom Thread(幻の糸)」は、ヴィクトリア時代の王侯貴族に仕えたお針子たちが、過労のあまり、作業が終わっても「見えない糸」を縫い続けていたという逸話に由来します。時に強い意志で、時に不可抗力のもとで、複雑に絡まる愛の糸…。そんなある意味歪んだ愛に幸福感すら抱いてしまう不思議な後味です。ダニエルとPTAが心血を注いで縫い上げた”芸術の極み”は、夢見心地の、まさに幻のように稀有な傑作でした。【東海ウォーカー】

姉弟にとっては仕事道具でしかないミューズは、つけ上がると追い出されます。トーストにバターを塗る時のカリカリ音がレイノルズをキレさせ…、いよいよ潮時のアルマの作戦とは!?
  • 姉弟にとっては仕事道具でしかないミューズは、つけ上がると追い出されます。トーストにバターを塗る時のカリカリ音がレイノルズをキレさせ…、いよいよ潮時のアルマの作戦とは!?

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします!  最近のお気に入りは「犬ヶ島」(5月25日公開)のウェス・アンダーソン監督!

■ファントム・スレッド
5月26日より伏見ミリオン座、TOHOシネマズ名古屋ベイシティほかにて公開
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス ヴィッキー・クリープス レスリー・マンヴィル ブライアン・グリーソン('17アメリカ/ビターズ・エンド=パルコ)
上映時間:130分
©2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

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