酒を愛し、楽しむ「仙人」が今日も酒を仕込む蔵。宮城県「森民酒造店」(1/2)

酵母のなるように、もろみのなるように。無理させず、自然にまかせて

大崎市岩出山(いわでやま)は伊達政宗が青年時代を過ごした地だ。通りは今でも石畳や蔵の街並みが残っている。

森民酒造店は、そんな表通りから一本奥に入った場所にある。目印は高いレンガの煙突。青々と茂った庭木が木漏れ日を落とす白壁に沿って歩くと、木のサッシの引き戸があり、そこが入口だ。

使い込まれ、手入れされた建物を眺めるだけでも訪れる価値がある。店の一角に展示されたレトロな看板や年代物のポスターも見どころのひとつ
  • 使い込まれ、手入れされた建物を眺めるだけでも訪れる価値がある。店の一角に展示されたレトロな看板や年代物のポスターも見どころのひとつ

ガラガラと戸を開け「こんにちは」と声をかけると、薄暗い奥から作業着の男性が現れた。5代目蔵元杜氏の森 民典(もり たみのり)さんだ。創業は1883(明治16)年。よい水があると聞いた仙台の商人が蔵を開いたのが始まりだという。

この地で生まれ育った森さんが家業を継いだのは1975(昭和50)年、30歳の時。当初は蔵元として売る仕事に専念していたが、徐々に酒造りを手伝うようになった。

「こだわりはなんですか」と聞くと、「自分流につくっているだけですよ」と森 民典(もり たみのり)さん。40年以上淡々と酒をつくり続ける
  • 「こだわりはなんですか」と聞くと、「自分流につくっているだけですよ」と森 民典(もり たみのり)さん。40年以上淡々と酒をつくり続ける

「小さい時からものづくりが好きだった。プラモデルをつくったりとかね。だから酒にも興味があって。その時来ていた杜氏さんが高齢で大変だというから手伝い始めたら、やっぱりおもしろくて。そのうち、杜氏さんが引退するということになったので、じゃあ自分でつくろうと。それが25年くらい前です」。

もともと「蔵元」は「酒蔵」を経営するのが仕事で、酒造りは冬の間だけ出稼ぎに来る「杜氏」に一任されていた。しかし時代が下るにつれ「杜氏」の後継者不足が顕著になり、酒造りを兼任する「蔵元」も増えてきた。森さんは、その先駆けだった。

「どんな酒を目指していますか」と聞くと、はにかむように言った。

「自然にまかせるのが一番かな。酵母のなるように、もろみのなるように。無理させずにつくりたい。ちゃんと酒になるよう最低限手を出して、あとはこだわらず、自然にね。

自分でやるようになってからいろんなことをやってみました。でも、うちの原点はやっぱり水だから。水のよさをそのまま活かした酒が一番いいなと」。

「父がつくっている姿を見ていたので、当たり前に私もやり始めました。楽しいですよ」と森さん
  • 「父がつくっている姿を見ていたので、当たり前に私もやり始めました。楽しいですよ」と森さん

敷地から湧き出る水はやわらかな口当たりの軟水。江戸時代から湧いているという井戸で、鉄分やミネラルが少なく雑味が少ない。ほとんど真水に近いような水質だという。

『森泉』の水が湧く井戸。ろ過や浄水をしすぎず、大切に使われている仕込み水だ
  • 『森泉』の水が湧く井戸。ろ過や浄水をしすぎず、大切に使われている仕込み水だ

「酵母は真水を好まないと言うのですが、なぜかほどよく発酵してくれます。過剰にろ過したりしないで酒をつくると、サラッとした甘口の酒になるんですよ」。

宮城の酒の主流は、辛口の酒。近年の流行も、食事に合う辛口だ。でも森さんは気にしない。

「万人に合わせるのではなく、好きな人はどうぞ、という感じです。それに、実は甘口が好きという人も多いんですよ。みんな辛口辛口と言うから恥ずかしくて言えないけど、と言って買いに来る人もいますから」。

蔵前の水、大崎の米。地元のものだけ使うから「地酒」

水のほかにもうひとつ、こだわりがある。それは米だ。森さんは、地元大崎で収穫した『ひとめぼれ』を主に使っている。

酒造りには「酒造好適米」と呼ばれる、酒造りに適した米を使用するのが一般的だ。兵庫県産『山田錦』や長野県産『美山錦』などが有名で、宮城県でも『蔵の華』などが栽培されているが、森さんはあえて、食用米を使用している。

「粒が小さいから割れやすいとか言われていますが、意外と難しくないんですよ。純米酒なんかは、米のうまみがよく出た酒になります。地元のものでつくるから『地酒』なんだと思ってやっています」。

蔵元杜氏として、常識にとらわれない酒造りをする森さん。勉強に来たいという人もいるが、すべて断っているそうだ。

「我流だから。教えるとかそういうんじゃない。気楽にやってるから、続いています」。

創業当時に建てられた酒蔵。重厚な梁が残されている
  • 創業当時に建てられた酒蔵。重厚な梁が残されている

森民酒造店の酒造りは、6月と7月を除いた10か月。数人のお手伝いはいるものの、造りに関わるのは、ほとんど森さん一人。1年で100石もつくらない。

「やりたい時につくって、できあがったらすぐに売る。貯蔵しないので、できたてほやほやです。発酵を止めるための火入れも瓶に詰めるときの1回だけ。在庫はほとんどないですね。たくさん流通させないので、宮城県でも『森泉』をのめる店はあまりないと思います。ここでつくって、ここで売って」。

まるで仙人のよう。酒に向き合い、水や米、麹、酵母と対話しながらつくり続ける。

「わからないことだらけですよ。温度がこうで麹がこうだから、米はこれくらい蒸したらいいかと調整してみても、思う通りにいかないことがたくさんある。自分がおいしいと思ったお酒と、実際に売れるお酒も違うでしょう。いろいろ工夫して理想のお酒をつくってみるけど、何がどうなっているのかわからないです」。

どこか愉快そうに話す森さん。実はお酒はあまり強くないそう。「グラスで3分の1ものむと眠くなります。おいしいのはわかるので、本当はのみたいんですけどね。たくさんのめる人がうらやましいです」。

【次のページ】日本酒の可能性に挑戦する、時を刻む古酒(2/2)
  • 1
  • 2
■森民酒造店
住所:宮城県大崎市岩出山字上川原町15
電話:0229-72-1010
見学:昭和レトロ館は土日祝のみ営業、10:00~16:00、
入館大人300円、小学生以下200円、定休:昭和レトロ館は月~金。
酒造りは見学不可
URL:http://moritamishuzouten.com/

■『NIPPON SAKE DISCOVERY 会いに行ける酒蔵ツーリズム 仙台・宮城』

編:東京ウォーカー編集部
発売日:2018年8月24日(金)
定価:1620円
発行:株式会社KADOKAWA





キーワード

[PR] おすすめ情報