リメイク版『死刑台のエレベーター』は最大の敬意が生んだ傑作!直木賞作家・小池真理子が語る

見事に悪女を演じている吉瀬美智子
  • 見事に悪女を演じている吉瀬美智子

『死刑台のエレベーター』(10月9日公開)が完成し、「虹の彼方」「欲望」などの代表作で様々な賞を受賞している作家の小池真理子氏からメッセージが届いた。

同作は、1957年に製作されたルイ・マル監督による傑作をリメイクしたもので、完全犯罪を計画する女性と、それを実行しようとする愛人の男性が、些細なことで運命の歯車を狂わせていく姿を描いたミステリーだ。

小池は語る。「今から53年前の1957年。フランスは『死刑台のエレベーター』という、ヌーヴェルヴァーグを代表する傑作映画を生んだ。原作はノエル・カレフ。監督はルイ・マル。ルイ・マルは当時わずか25歳で、『死刑台のエレベーター』は初監督作品だった。

全編モノクロームで撮影されたスタイリッシュな映像と、主演ジャンヌ・モローのアンニュイな、圧倒されるような存在感。彼女がひとり、夜の街をさまようシーンで流れる、マイルス・デイヴィスの哀切きわまりないトランペットのメロディ。それらすべてが、一分の隙もなく溶け合って、大団円になだれこんでいく。傑作と言う以外、言いようがなく、何度繰り返して観ても飽きない。

その、第一級の名作映画が、50年以上たってから、日本でリメイクされる、と聞いた時は、正直なところ、信じられなかった。なんと無謀な挑戦をするのか、いくらなんでも、無理ではないのか、大胆なアレンジを加え、まったく別の作品にしてしまう以外、あの名作を現代に置き換えてリメイクすることは不可能に決まっている、と私は思った。

だいたい、これだけ携帯電話が普及した現代、いくらなんでも、古いビルのエレベーターに閉じ込められたからといって、外部とまったく連絡がとれなくなる、ということはあり得ない。そのあたりをどのようにごまかすのか、そこにいるだけで圧倒的な輝きを放つジャンヌ・モローの役を日本人女優がどのように演じるのか、もうひと組の若いカップルの動きをどのように展開させていくのか、すべてが見ものだ、という意地の悪い期待もあった。

だが、完成された作品を観て、私は自らの短絡的な発想を恥じた。なるほど、そうだったのか、深く納得し、感嘆させられた。

本作、日本版『死刑台のエレベーター』は見事にオリジナルをなぞって作られている。ほとんどまったく、と言っていいほど、微細なシーンに至るまで、手を加えられていない。それどころか、寸分違わず同じ、と言っても差し支えない。

この、“寸分違わず、オリジナルをそのまま模写する”という試みは、簡単なようで、実はきわめて難易度の高い作業と言える。まったく同じものを作ればいいのだから、ということでは済ませられるわけもない。

 時代設定が変われば、変えざるを得なくなることは山のようにある。それは何も、ありきたりな時代考証や物語の流れだけにとどまらない。登場人物の心理描写や会話のひとつひとつも、時代を変えることによって、すぐに み合わなくなってしまう。

だが、ひとたび何かを変えると、また別の何かを変えていかざるを得なくなるのは自明の理だ。変更の連鎖は延々と続けられ、あちらを立てれば、こちらが立たず、となり、あげく、オリジナルはずたずたにされ、リメイクされたものは中途半端な“ものまね”でしかなくなって、リメイク作品としての完成度は低いものにならざるを得なくなる。

だが、本作は違った。“寸分違わず同じもの”を作ることに専念した結果、ほとんどの箇所を変えることなく、そっくり同じものが完成した。舞台がパリから横浜に移され、演じているのがフランス人ではなく日本人の俳優、というだけで、彼らが口にするセリフまでが似ている箇所すらある。むろん、タイトルもそのままだ。

映画史上、不朽の名作をリメイクしてみせるのだ、という、変に挑戦的で不敵な意気込みが感じられていたら、私など、はなから失望させられていたに違いない。だが、本作はオリジナルに対して、決して肩肘張った挑戦をしていない。あくまでも謙遜している。オリジナルに向けて、最大の敬意を払っている。リメイク版としての傑作を生み出すためには、完璧なコピーを目指すこと以外、方法など他に一つもないのだ、と言わんばかりに、寸分違わぬ作品を仕上げてみせようとする潔さ!その潔さが、私にはとてつもなく好もしく感じられた。

俳優陣も主演・助演の別なく、それぞれが入魂の演技を見せてくれている。

オリジナルでは、“アプレゲール”の象徴のような若者とその恋人が、重要な役回りを果たしていたが、本作ではそのカップルを交番勤務の巡査と美容師に設定し、きわめて酷似した空気を漂わせることに成功している。とりわけ、心の壊れた巡査を演じる玉山鉄二の演技が、異彩を放っていた。

オリジナル版と見比べてみることもお勧めする。“寸分違わぬ”ということの意味、何よりもそれを目指した作品であったことの重要性がわかっていただけるかと思う」。

吉瀬美智子と阿部寛、玉山鉄二と北川景子、対をなす男女の関係を見事に描き出した本作。舞台、シチュエーション、俳優陣、どれをとってもオリジナル版と遜色ないできばえだ。是非、オリジナル版とリメイク版を見比べてもらいたい。全編モノクロで撮影されたオリジナル版と、カラーとなったリメイク版、その色的な違いを見いだすのもまた一興だろう。【MovieWalker】

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