アマゾンの圧倒的なスピードを実現した「メトリックス」とは?/アマゾンスピード仕事術

どんな目標も必ず、数値で示す

アマゾンは今や、世界中に大きな影響を与える巨大な組織です。普通に考えれば、大きくなればなるほど組織のスピードは鈍化します。しかし、アマゾンはまるでF1レースのようなスピードで常に走り続けています。それどころか、年々スピードを増しているのです。

なぜ、そんなことが可能なのでしょうか?

それは、「どこがゴールなのか?」という意識合わせが明確だからです。

そのゴールは「メトリックス」と呼ばれています。

メトリックスは辞書などによれば「さまざまな活動を定量化し、その定量化したデータを管理に使えるように加工した指標」のことだそうです。ビジネス用語としてよく使われる「KPI= Key Performance Indicator」(重要業績評価指標)と一緒のものと考えて良いと思います。

要は、

「アマゾン全体で、今年どんな数字を達成したいのか?」

「そのために、アマゾンジャパンには今年どんな数字を達成してほしいのか?」

「そのために、アマゾンジャパンのオペレーション部門には今年どんな数字を達成してほしいのか?」

「そのために、オペレーション部門の1つである○○倉庫(フルフィルメントセンター〈FC〉)には今年どんな数字を達成してほしいのか?」

「そのために、○○FCには今月どんな数字を達成してほしいのか?」

「そのために、○○FCには今週どんな数字を達成してほしいのか?」

「そのために、○○FCには今日どんな数字を達成してほしいのか?」

「そのために、○○FCの××部門ではこの1時間でどんな数字を達成してほしいのか?」

といったように、「全社で目指したい大きな数字」を分解し、各部門によっての「この1時間で達成したい数字」のレベルまで落とし込まれているのです。そして、自分たちが求められている数字は各現場で常に「見える化」されています。

ですから、どの現場でも「自分が目指すべきゴール」が明確なのです。

また、どの現場でも「ゴールを目指す理由」が明確なのです。

「メトリックス」の存在――ここにアマゾンの強さがあると私は感じています。

数字で決めるから迷いがない!

大きな数字を分解する形で小さなゴールが決められているからこそ、1つの共通認識を持つことができます。各現場が猛烈なスピードで進んでも、ブレることがありません。

各現場でのやり方を一任できるのも、ゴールが決められているからです。端的に言えば、「数字を達成できるのなら、方法はどんなものでも良い」のです。

どんな方法でも良いというのは、労働時間を長くするといった非人道的な方向を指すのではありません。FCの例で言えば、「今まで手作業でかなりの時間をかけていた作業を、テクノロジーを導入して簡略化する」とか「資材の形状を変えることで、梱包作業を簡略化する」など、アイデアやテクノロジーを活かすことを指しています。

既成概念で「こうでなくてはならない」「こうやるのが当たり前」と思考停止するのではなく、「こうしたら簡単にできてしまうよね!」「こうしたらもっとお客様に喜んでもらえるよね!」ということを、各現場が常に考えて行動しているのです。

各現場に明示される数値、それは棒高跳びにおけるバーのような存在です。そして、アマゾンの社員は棒高跳びの選手のようなものです。アスリートならば軽々とバーを超えたいし、きれいにバーを超えたいし、もっと上のバーも目指したい――そんな気持ちになるものです。「すべてが数字で決まっている」と聞くと、なんだか無機質で冷たい会社のように感じる人もいるかもしれませんが、実際は逆です。社員の意識共有、そして創造性の発揮を促すのです。

シンプルな組織体制で、濃密な意思決定

では、メトリックスはどのように決められているのでしょうか? アマゾンの組織体制も含めてお話ししていきます。

アマゾンは、アメリカ本社を中心とした、部門ごとの縦割り組織となっています。トップにCEOのジェフ・ベゾスがいて、その下に各部門の決裁者であるSVP(シニア・ヴァイス・プレジデント)、さらにその下に世界各国ごとにVP(ヴァイス・プレジデント=各部門のトップ)が数十人います。そこからディレクター、シニアマネージャー、マネージャーが続きますが、かなり階層が少ない組織です(下図参照)。

アマゾンジャパンは現在、ジャスパー・チャン氏(リテール〈小売り〉やサービスの担当)と、私の直属の上司でもあったジェフ・ハヤシダ氏(FC、カスタマーサービス、サプライチェーンなどの担当)の2人の社長がいます。彼ら日本の社長2人も、VPの肩書きです。この2人もアメリカのシアトルに上司(SVP)がいます。

私は、ディレクターの肩書きで仕事をしていました。アマゾンという大きな組織ですが、「3つ上にはジェフ・ベゾスがいる」という、かなり風通しの良い組織なのです。

また、「リテール部門」「オペレーション部門」「サービス部門」など各部門に専任の財務(ファイナンス)チームが存在しているのも特徴の1つです。これにより、「オペレーションとしてはFCの新設にお金を投資したいけど、リテールがシステム変更をするので予算がとれないらしい」といった、各部門の思惑に左右されない体制ができているのです。

さて、私が長く在籍していた「アマゾンジャパンのオペレーション部門」のメトリックスを例に説明します。

来期のメトリックスは、アメリカのオペレーション部門のファイナンスチームとジャパンのオペレーション部門のファイナンスチームとのやりとりで決定していきます。

アメリカとのやりとりは、数ヵ月以上に及びます。ジャパン側が伝える数字はかなり高い目標ではあるのですが、アメリカからは「もっと安くできる方法はないか?」「もっと予算をかけずにできる方法はないか?」といった戻しがあり、組織がシンプルな分、非常に濃密なやり取りが行われます。

このやりとりで決まった大きな数字を分解し、各現場での目標に落とし込んでいきます。そして、来期の目標が数値として明確になっていくのです。

アマゾンは、数字をただの「飾り」にしない

アマゾンのメトリックスの考え方を日常使いする方法については、会社のマネジメントに携わる立場の人は、現時点で、

「一定期間(例えば1週間)内に達成すべき数字は決まっているか?」

「その数字は、大きな数字(例えば年間売上目標など)と本当にひもづいているか?」

「その数字は、目標達成の指標としてふさわしいものか?」

「その数字を、一部ではなく関係者全員で共有できているか?」

などについて、セルフチェックしてみてもいいでしょう。

数値目標が存在しない会社は、世の中にほとんど存在しません(あえて数値目標を設定しないポリシーを持つ一部の会社を除いて)。

ただ、その数値化が周知徹底されていない会社がほとんどです。浸透が途中で止まってしまい、数字が無意味なものとなってしまっているのです。

まずは「どこで根詰まりを起こしているのか?」を突き止める。それだけで、会社の進化のスピードを上げるヒントがつかめるはずです。

【スピード仕事術】

目標数値が、どのレベルまで落とし込まれているかをセルフチェックする。

(つづく)

【著者紹介】佐藤 将之(さとう・まさゆき)
企業成長支援アドバイザー。セガ・エンタープライゼスを経て、アマゾンジャパンの立ち上げメンバーとして、2000年7月に入社。サプライチェーン、書籍仕入れ部門を経て、2005年よりオペレーション部門にてディレクターとして国内最大級の物流ネットワークの発展に寄与する。2016年、退社。現在は、アマゾンジャパンを黎明期から支えた経験を生かし、経営コンサルタントとして企業の成長支援を中心に活動中。

【書籍紹介】『1日のタスクが1時間で片づく アマゾンのスピード仕事術』(KADOKAWA)
「不可能」を「可能」にする、「速さ」という最強の武器を手に入れろ! 注文から、最短1時間配送という驚異的なサービスを実現したアマゾン。その驚きと感動の舞台裏には、神速で仕事に取り組むアマゾニアンたちの仕事術があった! 彼らは、いかにしてスピードを追い求め、加速度的な企業成長を達成しているのか。アマゾンジャパンを黎明期から支え、国内最大級の物流ネットワークの発展に寄与した元幹部がその秘密を明かす。アマゾニアンたちの圧倒的生産性を体感すれば、今日から働き方・生き方が劇的に変わる!

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