消費税率引き上げの道筋をつくった「ミスター税制」って誰?/消費税は下げられる!①

目的は直間比率の是正だった

加藤寛(かとうひろし)という経済学者がいた。慶應義塾大学の教授で、税制にも造詣(ぞうけい)が深く、1990年から2000年までは、政府税制調査会の会長を務めた。実は、この加藤寛氏こそが、消費税率引き上げの道筋をつくった人なのだ。

加藤教授は、ミスター税調と呼ばれるほど圧倒的な影響力を持ち、消費税率を引き上げていかなければならないと言い続けた。その目的は、直間比率の是正だった。所得税や法人税といった直接税は、景気に応じて大きく変動してしまう。一方、消費税のような間接税は、安定した税収が得られる。高齢社会の膨大な社会保障財源を賄うためには、日本以外の先進国並みに間接税の比率を高めていかなければならないというのが、加藤教授の持論だった。

ところが、その加藤教授が、政府税制調査会の会長を退任する際の最後の答申で、持論である直間比率の是正をもう一度主張して花道を去ろうとしたら、大蔵省(当時)の官僚に制止されたそうだ。大蔵官僚とは、それまで手を携えて直間比率の是正を掲げてきただけに、不審に思った加藤教授が問いただすと、大蔵官僚は「直間比率の是正ではなく、財政危機を乗り切るためには消費税率引き上げが必要と言ってください」と話したという。おそらく、これが、いまの財政危機キャンペーンの源流だったのだと考えられる。

なぜ財政危機を煽る戦略に切り替えたのか

では、なぜ財務省(大蔵省)は直間比率の是正という看板を下ろし、財政危機を煽(あお)るという戦略に切り替えたのか。それは、直間比率の是正という水準を超えて、消費税率を上げていきたいという考えが、当時からあったからではないだろうか。

財務省のホームページによると、税収に占める間接税の比率は、2013年で日本29%、アメリカ23%、イギリス44%、ドイツ47%、フランス44%となっている。ヨーロッパよりは低いが、すでにアメリカを大幅に上回っている。これでは、直間比率の是正という言葉が説得力を持たない。さらに、消費税率が8%に上がったので、2016年度予算でみたときの日本の間接税の比率は33%と、アメリカを10%ポイントも上回っているのだ。

これでは、直間比率の是正という合言葉では、消費税率を引き上げられない。だから、税の構造をどのように構築するのかという本質的な問題から国民の目をそらし、「財政危機だから消費税率を上げざるを得ない」という短絡的な思考を押し付けようとしたのだろう。そこで、財政危機論を広く国民に浸透させるために、直間比率に代わって、財務省の強力なツールとなったのが、消費税率の国際比較のグラフだった。

【著者紹介】森永 卓郎(もりなが・たくろう)
1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。主な著書に『雇用破壊』(角川新書)、『年収崩壊』『年収防衛』『「価値組」社会』『庶民は知らないデフレの真実』 『庶民は知らないアベノリスクの真実』(いずれも角川SSC新書)。『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)では、“年収300万円時代”の到来をいち早く予測した。
12月8日には、日本経済転落と格差社会を生み出したカラクリを暴く新刊『なぜ日本だけが成長できないのか』(角川新書)を発売予定。

【書籍紹介】『消費税は下げられる! 借金1000兆円の大嘘を暴く』(KADOKAWA)
本書で強調したいことはたった一つ、「日本の財政は世界一健全」ということ。財政が健全なのだから、今こそ消費税率を引き下げるべきなのだ――。財務省主導の増税路線の間違いを正し、日本経済の進むべき道を説く一冊です。

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