『ミスター・ノーバディ』ジャコ・ヴァン・ドルマル監督「現実か空想か?是非考えてみてください」

ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の13年ぶりの新作が完成
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2092年の近未来を舞台に、運命が次々と変わっていく男の人生を描いた『ミスター・ノーバディ』が4月30日よりヒューマントラストシネマ渋谷などで公開(全国順次公開)されている。118歳のニモが死を目前に自分の人生を振り返るのだが、いったい彼が本当に歩んだ人生はどうだったのだろうか。12通りにも分かれる人生の可能性を奇跡のような美しい映像美と壮大なスケールで描いた本作は、2月に開催されたベルギーのマグリット賞で6部門を制覇し、海外でも好評を得ている。本作の監督を務めたジャコ・ヴァン・ドルマルがプロモーションで来日した折、話を聞いた。

――子役たちがとても魅力的に描かれていましたが、演技指導など苦労などはありましたか?

「私は子供が好きなので、監督の中には苦手な人もいますが、私にとっては一番簡単ですね。俳優の素質は5歳の子供にも備わっています。感情を出すということに対して、自信を持っているわけではないのですが、自然とできるのです。こちらから役割を与えようと思ってもできるものではありません。若いティーンエイジャーも起用していますが、彼らは思春期真っ只中でキャラクターと共感する部分がありました。トビーは役者かエンジニアかで悩んでいました」

――創作活動や情報収集はどのようにされているのでしょう?

「私は効率の悪いやり方をしているかもしれませんね。毎日3時間、3ページ書くことをノルマにしています。カードに書き込んでそれを積み重ねていく。1ヶ月程繰り返し、これらを並べて第1幕から第3幕ぐらいまでのストーリーを書きます。そしてまたカードに分解、それを繰り返していきます。これが唯一驚きをもって書ける方法なのです。そして自分の体験が入らないように気を付けています。感情面でだぶるところもありますが、そこは選択しています」

――本作のキャスティングについて聞かせてください

「ティーンエイジャーのキャスティングに一番早くかかりました。トビーは二年前に見つかりました。レトについては、彼の演技は『ファイトクラブ』や『パニックルーム』で見ていましたが、その時は気付きませんでした。9通りのニモを演じ分けるには彼は理想だったと思います」

――主人公のニモは場面、場面で決断をしていくわけですが、その選択について監督自身はどのように決められたのでしょう?

「自分自身、なぜその道を選んだのかわかりません。欲望などが働いていたと思いますが説明がつきません。ニモは女性を愛するわけですが、なぜこの人なのか?も説明がつきません。自由意志と言いますが、これは矛盾した言葉であり、意志を決める時に自由はないのです。衝動で決めていると思いますね。すなわちコントロールを失うということをコントロールする、ということです」

――ベルギーの映画について聞かせてください

「色々なスタイルが共存していますね。特徴は特徴のなさと言えるでしょう。隣国のフランスでは師匠がいて、○○派だ、●●派だとありますが、ベルギーにはそういうったものがありません。多くの自由を享受しています。そして自由なスタイルでそれぞれがやっています。そこは良いところですね。ただやはり存在感がまだまだ薄いですね。昔のベルギー映画は観客を念頭に置いて作るということがありませんでした。だからベルギー人はベルギーの映画を見なかったのです。それがここ20年ぐらいで変化があり、外国で評価された作品が凱旋上映され、自国民が興味を持つ、という流れができています」

――本作の構成について教えてください

「普通は終わりに向かって収束していくのが映画ですが、私はその逆をやりました。つまり枝のように広がっていくのです。それは前例のないものでエキサイティングでしたが、スタッフにとっては、現実だと思っていたことが実は夢だったとか、困惑が大きかったと思います。ニモのいる世界が空想なのかそうでないのか、どの世界にいるかをわからないようにしていました。だから現実なのか空想なのか、皆さんも判断は難しいと思いますよ。もちろん私の中では明確な答えはありますが」

――監督は5度目の来日ということで好きな街はありますか?

「はい、今回が5回目になりますが、私は伊豆が好きですね。温泉が良いです。他にも築地市場とかも。関西の京都、大阪、神戸も好きですよ」

――監督にとって映画を撮り続ける意義はどういったものでしょうか?

「私は撮る以外、他に何もできないから(笑)。それはともかく、映画は友人と一緒にいる手段ですね。私は集団で仕事をするのが好きなのです。脚本を書いている時のキャラクターは亡霊のようなものです。それを役者たちが演じることで動き出し、深みを与えてくれます。そして照明などのスタッフの手によってボリュームを持たせることができます。そうやって集団の傑作が生まれるのです。書いている時から比べると、薄っぺらいものが豊かな厚みを持ったものになるのです。映画は色々な発見ができるものですよ。今回は随分と長くかかってしまいましたが、次作はもう少し早く作れるように頑張ります(笑)」

本作は『トト・ザ・ヒーロー』(91)、『八日目』(96)のジャコ・ヴァン・ドルマル監督が贈る13年ぶりの新作映画だ。監督が描き出す巧妙なシナリオの中で、主演のジャレッド・レトをはじめ、妻役の3人の女優陣、サラ・ポーリー、ダイアン・クルーガー、リン・ダン・ファン、そして子役のトビー・レグボ、ジュノー・テンプルなど、俳優陣が素晴らしい演技を披露している。ニモが人生を回想するなかで、どれが現実でどれが空想なのか? 劇場でじっくり鑑賞してもらいたい。【Movie Walker】

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