全身全霊で挑んだ瑛太の切腹シーン。瑛太が三池崇史監督にした提案とは?

瑛太が渾身の演技を見せる切腹のシーン
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かつてこれほどまでに痛みを感じさせる切腹シーンがあっただろうか。公開中の三池崇史監督作『一命』で、瑛太扮する求女が命じられた切腹は、竹光で腹をかっさばくというすさまじい内容だった。もちろん、簡単に腹に刺さるわけがなく、求女は何度も何度も半狂乱の状態で竹光を自分の腹に突き続ける。この酷すぎるシーンについて、瑛太は三池監督にある提案をしたという。さて、その内容とは?

原作は1962年に仲代達矢主演作『切腹』として映画化された、滝口康彦の「異聞浪人記」。三池監督はこの時代小説を、市川海老蔵や瑛太、役所広司、満島ひかりら豪華キャストを迎え、3D映像で映画化した。時代は、生活に困窮した浪人があふれる江戸時代初頭。浪人・津雲半四郎(市川海老蔵)が名門・井伊家に出向き、切腹を申し出る。井伊家の家老・斎藤勘解由(役所広司)が、先日同じ目的でやって来た同家の千々岩求女(瑛太)について尋ねると、半四郎は驚くべき真実を語り始める。そして、求女の切腹シーンは、過去の回想という時間軸で語られていく。

切腹シーンについて、瑛太から「畳の上で腹を切らなくては駄目しょうか?」と、意表を突く質問をされたという三池監督。「その時、それって何か意味があるのかな?って思ったんです。彼が言うには、前に出て、玉石の上で座り込んで腹を切りたいと。時代劇の作法に慣れた人間であれば、切るべき場所でやることを当然と考える。でも、瑛太はフォーマットにはまり切らないところに、自分が時代劇をやるうえでの表現を見出したんでしょうね」。

実際にその提案を踏まえて撮った渾身の切腹シーンに、三池監督は納得したという。「彼はそうすることで求女の役を果たせたんでしょう。俳優さんって色々と考えていて、デリケートだなって思いました。彼は時代劇の経験がほとんどなかったし、時代劇の登場人物の行動は必ずしも共感できるものではないという感触を持っていたのかなと。求女という、比較的大人しくて理屈の通る人間が、そこまで無様に追い込まれていったという解釈もできただろうし。腹を竹光で切れと言われた時、礼儀作法とかは全く意味のないものになったのかもしれない」。

満島ひかり扮する求女の妻・美穂が、求女の亡骸を見て泣き崩れるシーンも印象的だ。求女の懐から、美穂と食べようと思って持ち帰るつもりだった饅頭が出てきて、涙を誘う。「求女は自分も腹が減っていたけど、ただ饅頭を美穂に食べさせたかったんだと思うんです。そのシーンの切ないところは、求女がどこまでも生きて帰ってこようとしていた点です。死ぬことなんて少しも考えていなかった」。

三池監督はこのシーンで、満島の演技に度肝を抜かれたそうだ。「饅頭は血に染まっていましたが、満島ひかりはあれを丸々全部食っちゃって! 丸1個食べると、女優さんなら口がモゴモゴになってセリフを言えなくなるのに、そんなことはおかまいなし。普通ならちょっとかじって、悲しみで食べられなくなったり、じっと饅頭を見つめるというお芝居になるんだけど、あの人は食べる、食べる。何回テストをやっても必ず食べてました(笑)。というのも、体を病んでいた美穂は食欲もないし、一口で食べ切れないから、無理やり詰め込むしかなかった。饅頭の味さえも感じられないのに『おいしい』って求女に言いながら食べるんです。すごい女優さんですよね。見事でした」。

三池監督は「役者に頼ってばかりはいられないけど、役者が自由に表現できる場を作るのが監督の役目」だと語る。実際、『一命』では市川海老蔵らキャスト全員が、スクリーン上で最大限に力を発揮している。それは役者の意見を柔軟に取り入れつつ、的確な指揮を取る三池監督の卓越した演出力の成せる業に他ならない。【取材・文/山崎伸子】

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