ヴィム・ヴェンダース、亡き盟友への思い「ピナ、これが君に約束した映画だ」

『Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』のヴィム・ヴェンダース監督
  • 『Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』のヴィム・ヴェンダース監督

『パリ、テキサス』(84)のヴィム・ヴェンダース監督が、満を持して放つ3D映画は、天才舞踏家ピナ・バウシュのダンスを撮ったドキュメンタリー映画『Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2月25日公開)。第84回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門ノミネートの話題作だ。ピナの盟友であったヴェンダースが、彼女の魂に寄り添って撮り上げた本作は、五感の全てを刺激する快作となった。来日したヴェンダースに本作の撮影秘話と、映画作りのポリシーについて聞いた。

ベンダースのドキュメンタリーといえば、キューバ音楽をフィーチャーした『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(99)が日本でもロングランヒットとなった。その手応えを感じたから、また新たにドキュメンタリーを手掛けたのか?と尋ねると、首を横に降るベンダース。「正直言って、あの映画の成功は、僕自身もサプライズだったよ。でも、大事なのは、一つの映画が成功したからといって、二匹目のドジョウを狙ってはいけないってことだ。失敗への一番の近道は、成功をもう一度再現しようとする気持ちだと僕は思う」。

実際、『Pina ピナ・バウシュ』は、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』よりも先に動いていたプロジェクトだった。「ピナとこの企画を話し始めたのは1980年代の半ばだ。では、なぜ本作を先に作らなかったかというと、作れなかったからだ。それは舞踊を的確にとらえるツールが存在しなかったから。ピナの期待値も相当高かったし、僕も彼女を失望させたくなくて。ずっとどうやって撮るかを模索し続けていたんだ」。

そこで登場したのが、ベンダースが“新しい言語”とする3Dだ。彼は「ピナの世界を汚さず、きちんと描くこと」を心掛け、製作に踏み切った。「映画を撮る時、一番大事なのは、誠意を持って作るという気持ちだ。本作では、ピナと同じ思いで映画を作ることが大事だった。いくら技術が発達しても、ちゃんとした思いがなければ映画は作れない。彼女や彼女の作品が好きだから撮りたかった。それが本作を手掛けた最大の動機だった」。

ところが撮影前の2009年、ピナ・バウシュは急逝してしまう。一時は映画製作自体が危ぶまれたが、最終的にヴェンダースを奮い立たせたのは、ピナの精神を受け継いだダンサーたちだった。「ダンサーたち=ピナで、僕はダンサーたちを通してピナと会話をしている気分になれたんだ。また、彼女の生前に、僕と彼女はいろんなことを話し合っていたので、撮影中はあたかも肩の向こうからピナがずっと見守ってくれているような気がしたよ」。そして渾身の一作が完成した後、ヴェンダースはピナに「これが君に約束した映画だ」と報告したという。

最後に、ヴェンダースが世界的に評価されつつも、名声に流されることなく、常に自身の世界観を貫ける秘訣について聞いてみた。「この世で一番の贅沢は、本当に自分のしたいことだけをできることだと思う。僕がまだ駆け出しの頃、学んだことがある。それは、予算があるからといって、撮りたい映画が撮れるわけじゃないってこと。逆に自由が制限されてしまうんだ。今、僕はお金持ちじゃないし、僕の作る映画の予算はハリウッドの大作に比べて微々たるものだ。でも、いつも自分が撮りたいものを撮っている。自分がとても贅沢な環境にいるってことは実感してるよ」。

では、なぜそれができるのか?とさらに突っ込んで聞くと、「これまで自分は妥協したことがないし、これからもしないからだ」と、シンプルに答えてくれた。なるほど、そういうことか。だが、それを貫けるのも才能のなせる業に他ならない。ヴィム・ヴェンダース、御年66歳、次回作では3Dの人間ドラマに挑む。その前に本作で、彼の言う“新しい言語”で表現された、ピナの情熱的な舞いを堪能したい。【取材・文/山崎伸子】

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