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キアヌ・リーブスがプロデュース『Side by Side』で巨匠監督らが映画界のデジタル革命を語る

MovieWalker 2012年5月3日 12時45分 配信

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2009年、大部分をフィルムではなくデジタル撮影した『スラムドッグ$ミリオネア』(08)がアカデミー賞8部門を席巻した瞬間、アメリカ映画業界の歴史が大きく揺れ動いた。古い慣習を重視する高齢者からなるアカデミー会員からは、デジタル撮影した作品は受け入れられないという暗黙の了解があったからだ。

そう語るのは、トライベッカ映画祭でお披露目されたドキュメンタリー『Side By Side』でプロデューサーとインタビューアーを兼ねるキアヌ・リーヴス。残念ながら今回は、北京で初監督と主演を兼ねる『Man of Tai Chi』(全米2013年公開予定)の撮影中だったため、映画祭には参加できなかったが、キアヌと共に映画を製作したクリス・ケニアリー監督とプロデューサーのジャスティン・ザーサが、同作について熱く語ってくれた。

『Side By Side』は、関係者たちへのインタビューを通じ、急速にデジタル化が進む映画界の歴史をたどるドキュメンタリー映画。早くからデジタルシネマへの移行に積極的だったジョージ・ルーカス監督をはじめ、ロバート・ロドリゲス監督、3Dの先駆者ジェームズ・キャメロン監督、クリストファー・ノーラン監督、デヴィッド・フィンチャー監督、スティーブン・ソダーバーグ監督、ダニー・ボイル監督、デヴィッド・リンチ監督、マーティン・スコセッシ監督、ラース・フォン・トリアー監督など、現代を代表するヒットメーカーが勢ぞろいしている。

CG満載の代表作『マトリックス』シリーズや、実際の俳優を撮影した映像をデジタル画像処理によってアニメーション化する技法によって製作された『スキャナー・ダークリー』(06)などで主役を演じたキアヌは、アメリカ映画業界に押し寄せるデジタル化の波をいち早く感じ取っていた俳優の一人でもある。そのキアヌが、『フェイク・クライム』(11)に主役のみならずプロデューサーとしても携わり、クリス監督と一緒に仕事をしたことがきっかけで、同作の製作に至ったのだという。

「キアヌは、俳優という立場からだけではなく、製作者という立場から、とても映画に興味を抱くようになったんです。フィルムを切り離して編集していた時代から、多くの作品がデジタルカメラで撮影をするようになったことで、映画界がどのような変化を遂げたのか、また監督や関係者たちがどのような思いでその変化を受け止めているのかなどにとても興味がありました。そしてこの作品を作ろうということになったんです。企画から製作までには時間はかかりませんでした。キアヌの人脈のおかげで、無理なく、あれだけの素晴らしい関係者から意見を聞くことができたんです。昨年11月に撮影監督たちが集うフェスティバルがあったので、幸運にもそこでまとめて彼らには話を聞くことができ、さらにキアヌが、ロサンゼルスやニューヨークで、忙しい監督たちのスケジュールの合間を縫ってインタビューをしました。140人くらいリストアップして、70人くらいとコンタクトが取れたのですが、とにかくラッキーだったのは、あの巨匠たちが自ら『話したい!』と積極的に取材に応じてくれたことです。ボイル監督もそうですが、『ダークナイト ライジング』(全米7月20日、日本7月28日公開)に携わっていたノーラン監督は、昨年から今年にかけては特に分刻みのスケジュールだったにも関わらず、『15分でも』と自ら時間を割いてくれたんです」と、興奮冷めやらぬ様子で語ってくれたクリス監督。プロデューサーのジャスティンもまたクリス監督やキアヌと同様に、同じ映画人として、巨匠たちに出会い率直な意見を聞くことができたことに大いに刺激を受けたという。

作品の中で、日本企業としてはソニーにはじまり、パナソニック、そして現在はキャノンが積極的に映画撮影用のデジタルカメラ開発に携わり、今まで不可能だった映像を短時間かつ低予算で製作することが可能になったことに触れ、日本がアメリカ映画界に与えた影響の大きさも伺い知ることができる。また、実際の映画撮影の現場の様子を紹介しつつ、監督たちが目を輝かせながら持論を唱えるのを見るのは何とも面白い。

『スラムドッグ$ミリオネア』は、フィルム撮影ではなく、小回りのきく機動性を重視したデジタルカメラのおかげで、スラム街を駆け抜けながら撮影することができ、その躍動感や斬新さがアカデミー賞受賞という道を切り開いた。また、重いカメラを装着しての撮影はありえなかった『ソーシャル・ネットワーク』(10)のボートレースの臨場感あふれるシーンなど、デジタル化の貢献は大きい。一方で、フィルムを一枚、一枚カットして編集していた時代を生きてきた関係者の中には、手頃なデジタルビデオカメラが出回って、誰でも映画が撮れるようになったことに、質の低下やプロとしての危機感を抱く人たちもいる。またデジタル処理により、観客がリアリティを感じなくなると懸念する声もある。

さらに興味深いのは、デジタル撮影によって影響を受けるのは、撮る側だけではないということだ。監督から「カット」の声がかからなくなったことで、ロバート・ダウニー・Jr.がたまりかねて、「トイレに行かせてくれ!」と懇願した逸話なども飛び出し、連続して、しかも多方面からの撮影が可能になったことで俳優たちに与える影響も大きいことがわかる。

それにしても、これだけの数の巨匠たちのインタビューを集めるのには、一体どれだけの時間がかかったのだろうか。インタビュアーとしてのキアヌの、時には長髪に髭面であったり、髭のない顔であったり、短髪に髭なしという様相を見ればわかるとおり、撮影には約1年半を要したという。「インタビューを集めていたら、あっという間に1年半経っていましたが、この作品を作っていく過程で、私たちもいろんな勉強をすることができました。デジタル化によって何が実現可能となり、またどんな弊害が生まれてくるのか。一人、一人の意見全てにうなずけるものがあり、キアヌも私たちもどれが正解かということは言えないと感じました。ただ言えることは、ケースバイケースということです。キアヌとは議論を闘わせたことはありませんが、キアヌは遂に監督になりました」と、笑ったクリス監督。

キアヌが『Man of Tai Chi』で初メガホンを取るほどまでに多大な影響を受けた作品であると同時に、巨匠監督たちが熱い思いを語るのを見るだけでもわくわくする秀作は、映画ファンがより映画を楽しむためにも是非お勧めしたい一作。映画を見る目が変わるに違いない。【取材・文/JUNKO】

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