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『希望の国』の園子温監督「原発問題を描かない日本の映画界がおかしい」

MovieWalker 2012年10月17日 13時22分 配信

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ひるまない男だ。『冷たい熱帯魚』(11)の鬼才・園子温監督が、3.11をモチーフに入れた『ヒミズ』(12)に続き、今度は真っ向から原発問題を斬った映画『希望の国』(10月20日公開)を撮り上げた。原子力発電所のある町で酪農を営む家族が、大地震での原発事故を経た後、どう生きていくかを模索していく。園監督が被災者に取材を重ね、現地での悲痛な叫びを吸い上げた渾身の一作だ。園監督にインタビューし、本作を撮った決意と覚悟について話を聞いた。

震災後の原発問題をダイレクトに扱うことは、かなり勇気のいる行為だと思うが、園監督の背中を押したものは何だったのか?「『ヒミズ』の時も色々言われました。せっかく『冷たい熱帯魚』などがヒットしてきたのに、なぜあえて人を減らすようなことをするのか?と。ドキュメンタリーではなく、3.11の原発を描くドラマはまだなかったので、世間体もあったし、自分的にも苦悩はありました。でも、それはすぐに頭を切り換えました。やっぱり、今だからこそ撮るべき映画だと思ったから」。

「この問題が他と違うところは、現在進行形だという点です。だから、脚本を想像力で書いてはいけなかった」という園監督。脚本作りのため、園監督が被災者から話を聞き始めたのは震災の傷跡が生々しい2011年8月だった。「最初は朝から晩までやっていた報道も次第に冷めてきていました。これを風化させてはいけないという思いもあったし、他のアートや文学は3.11について、どんどん発信が始まっていた。でも、日本の劇映画から発信するものは特になかったので、自分がやらなきゃいけないと思いました」。

『希望の国』が完成した今、心に迷いはないのか?と聞くと、「映画を作ると決めた際に、一つの覚悟をしたわけだから、今は何も迷っていないです。でも、僕に迷いがあるどころか、皆さんに迷いがあるのがおかしい」と、語調を強める。「よく取材で、『なぜ、今、福島を映画化するんですか?』と聞かれるけど、逆に僕は『なぜ、みんなそれをしないのか?』と聞きたい。あんなに大きなことが起きても、それを映画の題材にしない日本の映画界はすごくおかしいと思う」。

「無関心が一番いけない」と語る園監督は、今後も原発問題を扱った映画を作っていくべきだと考えている。「こんなに臆病なの、日本人だけですから。たとえば、アメリカだったら『ハート・ロッカー』(イラク駐留の米軍爆発物処理班の苦悩を描く反戦映画)とか、今、進行中の戦争に対する批判を込めた映画をメジャースタジオで作り、なおかつアカデミー作品賞になったでしょう? だから、日本も大手が作るべきなんです。今回、ヴェネチア国際映画祭で発表された、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ザ・マスター』は、今、アメリカで流行っている新興宗教の教祖を描いた作品だし。海外ではそういう映画を普通に撮りあげています」。

園監督は、『希望の国』を2012年中に撮り、公開まで漕ぎ付けることにこだわった。「たとえば、特攻隊の映画を、戦争が終わって一年後に映画化したらタブーになるけど、傷ついた人が死んじゃっていなくなった今なら、感動のモチーフにできる。でも、そうなってから作ることに何の意義があるのか?って思う。本作は2012年中に公開してこその映画。事故のことを風化させてはいけないんです。“鉄は熱いうちに打て”ですから」。

『希望の国』の後は、國村隼、堤真一、二階堂ふみ、友近、長谷川博己、星野源らを迎えたバイオレンスアクションコメディ『地獄でなぜ悪い』(2013年3月公開)が待機中だ。本作については「超エンタメ映画で面白くて、笑って終わるポップコーン映画」だと話す。「僕は今後も、ちょっとだけ問題作、みたいなものは一切撮らずに、全く問題も何もないエンタメ映画を作る一方で、『希望の国』みたいな問題作を撮っていくようにしようかと思っています。両極端ですよね」。確かに、その振り幅はすごい。

これまでに何度も“問題作”というレッテルを貼られた容赦ない作品を放ってきた園監督。『希望の国』は作風こそは静かだが、その衝撃度と思いの強さは群を抜いている。しっかりと園監督の思いを受け止めてほしい。【取材・文/山崎伸子】

希望の国

2012年10月20日(土) 公開

『冷たい熱帯魚』や『恋の罪』といった、実在の事件などを題材にしたショッキングな作品を次から次へと送り出す鬼才・園子温監督。そんな監督が東日本大震災以降...

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