【その1】作家・垣根涼介がデビュー13年にして初の歴史小説「光秀の定理(レンマ)」をリリース。“敗者”によって語られる歴史とは!?

「プロとして10年間書き続けていたとしたら、歴史小説を書こうと思っていた」と語る垣根氏
  • 「プロとして10年間書き続けていたとしたら、歴史小説を書こうと思っていた」と語る垣根氏

2000年、「午前三時のルースター」でデビューし、「ヒートアイランド」「ワイルド・ソウル」「君たちに明日はない」など数々の話題作を生み出してきた作家・垣根涼介。ことしデビュー13年。時は戦国時代、明智光秀を主人公に初の歴史小説「光秀の定理(レンマ)」に挑んだ著者に直撃した!

_今作はご自身の新境地とも言える歴史小説ですが「もし10年作家をやりつづけていたら歴史小説を書きたかった」と仰られていましたね。

垣根「そうですね。僕ね、けっこう人物を掘り込んで描くのが好きなんですけど、そういうのって歴史小説が以外と向いてるんですよね。だから歴史小説を書きたかったというのはありますね。時代小説ではなく。」

_タイトルに「光秀の」とありますが、最重要登場人物として「愚息」と「新九郎」の2人の存在がありますが、この二人は…?

垣根「僕が作った登場人物ですね。」

_まずはこの二人の人間のやりとりから物語が描かれていますが、光秀に影響を与える存在としてこのまったく違うタイプの人物像を作られた理由は?

垣根「今回のお話の構造を説明すると、明智光秀という人物は一族最高の義務を背負っているんですよね。それはどういうことかと言いますと、必ずどこかの大きな組織に属して、そこで立身出世でもしないと一族が存続できないという立場を運命づけられている。で、もう一人の新九郎に関してですが、この男は技能のみで立とうとしてるんですよ。かたや組織に属して立身出世していく人間、かたや技能のみで生きていく、それ以外のことは考えなくてもよい人間。この対比の中で光秀という人物をみせたかったんです。最初に愚息と新九郎のやりとりから物語りが始まったことに関しては、そっちのほうが面白いかなって思って(笑)。ほら、何でも主役って遅れて登場するものじゃないですか(笑)。宴席でもどこでも(笑)。」

_確かに(笑)。定理(レンマ)の証明の為に”四つの椀の理”を解く場面がありますが、理系が苦手なので一瞬ひるんでしまいました(笑)。 

垣根「アハハ。いやいや、僕もまったく無いですよ、理系の脳(笑)。」

_だけど読み進めていくと、その理がある「真理」に導いてくれるわけなんですが、ここで言う”真理”を示すのに、この定理の式を用いた理由というのは?

垣根「描く以上はある程度、立証しないといけないんですよね。ある程度キチっとした理屈の積み重ねで、全員が読んで9割が納得できるアンサーというものを用意しておかないといけなくて。人生訓などではなくて、現前たる事実として証明するっていう。『生き方を変えられない人は、四択が二択に変わった時に滅びる可能性が強いですよね』ということを四つの椀で示したということですね。」

_この物語にはたくさんの登場人物が出てきますが、いわゆる「善人」「悪人」の二分法にきっちりと分けられる人間がひとりもいないんですね。「こいつは善か悪か?」「偉人か凡人か」という固定概念が自分にあるばかりに、登場人物たちに振り回されました(笑)。

垣根「ハハハハ!うん、そうなんですよね。そもそも現実レベルとして『善悪』の二分法なんて無いんですよ。ヤクザだって自分の利害が絡まない限りは泣いてる子供がいたら助けるでしょうし。坊さんだって『こいつ金持ってそうだな』と思ったら戒名ひとつ書くのに400万とか取ったりするでしょ(笑)。善悪っていう概念なんて、そもそも存在しないものなんですよね。」

_じゃあ、どうしてその二分法が必要になってくるんでしょうか?

垣根「楽だからじゃないですか。例えば自分で『こいつは悪』『こいつは善』って決めてしまえば、それ以上考えなくて済むんですよね。自分を掘り込んでいく作業って不安になるから、そうやって取り敢えずの落ち着きどころを決めているというか。考えるの面倒臭いですからね、みんな(笑)。」

※【その2】に続く

【取材・文=三好千夏】

■垣根涼介(かきね・りょうすけ)
1966年、長崎県生まれ。2000年、「午前三時のルースター」でデビュー。04年、「ワイルド・ソウル」で大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞を、05年、「君たちに明日はない」で山本周五郎賞を受賞。ほか著書に「ヒートアイランド」シリーズなどがある

■BOOK
「光秀の定理(レンマ)」
発売中 角川書店 1680円

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