キム兄が『ニセ札』に込めた強烈なメッセージとは?―No.6 大人の上質シネマ

木村祐一監督&出演の『ニセ札』
  • 木村祐一監督&出演の『ニセ札』

放送作家、タレント、俳優、料理人――数々の肩書きを持つ吉本芸人の“キム兄”こと木村祐一の多芸ぶりは、誰もが認めるところだろう。だが、そんな彼が初監督した映画『ニセ札』を、いわゆる器用な“芸”の一つと見てしまってはもったいない。

『ニセ札』の物語のベースになっているのは、昭和25年に起きた総勢21名の村人が加担したという日本史上最大のニセ札偽造事件。この実在した事件を、キム兄は奇をてらうことも笑いに走ることもせず、ニセ札にまつわる人情劇として仕立て上げた。芸人がコントの延長線上に作った作品などでは決してなく、“お金”の価値を問うテーマが物語と実に巧妙に絡み合っていて唸らされる。

舞台は、かつては紙漉き産業が盛んだった小さな山村。戦後の混乱で物価が急騰する中で発行された、聖徳太子が印刷された新千円札の登場が事の発端だ。村人からの人望も厚い小学校教頭・かげ子(倍賞美津子)が、昔の教え子から新千円札の偽造を持ちかけられ、村の名士や元陸軍兵士、村一番の職人たちを巻き込んでの一大プロジェクトと発展していく。

ここで重要なのが、ニセ札作りに加担する登場人物が、悪人ではなく善良な小市民だという点だ。ニセ札偽造が犯罪――そんなことは百も承知。だが、貧しい村の暮らしを少しでも豊かにしたい、子供たちに美味しいものをお腹いっぱい食べさせてやりたい。そんな一心で犯罪に手を染めていく彼らの“躊躇”が、観てる我々にも手に取るように分かるのだ。ところが、ニセ札作りの手順を踏むにつれ、罪の意識を背負っていたはずの彼らが、奇妙な使命感を見出していく。それはなぜか? お札は所詮、紙切れ。扱う人間の心の持ちようで、その価値がいかようにも変わることを彼らが悟るからだ。

今の世の中なんでも金や――劇中のこのセリフは不況真っ只中の今、骨身にしみる言葉だが、果たして本当にそうなのか? 物語の終盤に導き出されるその答えこそ、キム兄が本作に込めた強烈なメッセージでもある。もちろんその内容は観てのお楽しみだが、鑑賞後の“清々しさ”だけは保証する。日々のストレスや世知辛さを痛感する大人たちが観れば、少しでも鬱憤が晴れるのではないだろうか。【ワークス・エム・ブロス】

■『ニセ札』は4月11日(土)テアトル新宿、シネカノン有楽町2丁目ほか全国順次ロードショー

【大人の上質シネマ】大人な2人が一緒に映画を観に行くことを前提に、見ごたえのある作品を厳選して紹介します。若い子がワーキャー観る映画はちょっと置いておいて、分別のある大人ならではの映画的愉しみを追求。メジャー系話題作のみならず、埋もれがちな傑作・秀作を取り上げますのでお楽しみに。

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