劇画の父・辰巳ヨシヒロの生き様が明らかに。クー監督と別所哲也がその魅力を語る

エリック・クー監督と別所哲也が熱く語る!
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戦後日本の活力となり、世界に誇るカルチャーとなった“マンガ”。“マンガの神様”と呼ばれるのが手塚治虫だが、その神様をも嫉妬させたマンガ家が辰巳ヨシヒロだ。『TATSUMI マンガに革命を起こした男』(11月15日公開)は、シンガポールの映画監督エリック・クーが辰巳への敬意を込めて作り出した渾身作。クー監督と、劇中で一人6役を任された別所哲也に、辰巳ヨシヒロの知られざる魅力について語り合ってもらった。

本作は、辰巳ヨシヒロの自伝的エッセイマンガ『劇画漂流』と、彼の代表的な5つの短編を最新技術によって映像化したもの。怒り、悲しみをマンガにぶつけ、どうしようもない状況に陥ったキャラクターを愛情を持って見つめる。シリアスな表現をマンガに持ち込み、“劇画”というジャンルの生みの親となった辰巳の世界観に圧倒されるが、クー監督が辰巳の作品に出会ったのは、およそ20年前のことだとか。

「それまではアメリカのコミックを読んでいたけれど、辰巳先生の短編を友達にもらって。読んでみたらぶっ飛んだよ!辰巳先生の作品を読んで受けた衝撃は、また今、この場で読んだとしても同じ衝撃を受けるだろうね」と興奮気味に語る。「その後、2009年に辰巳先生の自伝『劇画漂流』を読んで。ずっと心に辰巳先生のことがあったんだけれど、そのときにやっぱり辰巳先生のことを映画にしたいと思ったんだ」。

別所も「追い詰められた極限的な状態にあるんだけれど、どの作品にも、悲しみと希望が表裏一体となったキャラクターが登場する。それが僕にとってはとても魅力的で」と辰巳ワールドに魅了された。しかし今回、任されたのは一人6役というミッション。これには別所も「これは大きなチャレンジでしたよ!」と苦笑いで、「ライブアクションじゃないから、声にすべてを乗せなければいけないわけです」と大役への苦労を語る。

クー監督は、「ビールで彼を釣ったんだよ!」と笑い、「この映画に必要だったのは、存在感のある声だった。そして、すべてを演じ分けられる演技力が必要だった。そんな人を探しているときに、友達から別所さんを紹介してもらって」と述懐。シンガポールに別所が赴き、約2日間で収録をするというハードスケジュールだった。「シンガポールに着かれて、『明日から仕事だから、ビールもほどほどにしておこうか』と食事に行って。もうそのときに、別所さんのゴージャスで、人懐こいオーラに魅了されたよ。それでいてスタジオに入ると、仕事が早いんだ!僕はせっかちだから、仕事が早い人が大好きで。今度は20役をやってもらおうかな」と、別所との仕事に大満足。別所も「それは大変だ!でもエリックのいうことなら、是非やってみたい。今回は俳優として、本当にグッドチャレンジでしたよ」と目を輝かせる。

辰巳の自伝と彼の短編を組み合わせることで、ひとつの作品が出来上がったが、クー監督は「辰巳先生の短編を映画にするだけではなく、先生の人生を映画に盛り込みたかった」とその意図を明らかにする。「辰巳先生は、とにかく真のアーティスト。自分の生き様というのをわかって生きてきた人の人生を映画にしたかったんだ」と力を込めるが、別所も「これはまさに、エリックワールドですよね。その構成が独特でとてもユニーク。この映画で、僕らは改めて昭和の時代に出会うし、劇画というものが生まれるまでがわかるし、いろいろなことがわかる。それをシンガポールのエリックが作ってしまうんだから、信じられないですよね」とクー監督の手腕に感心しきりだ。

“劇画”というジャンルを生み出した辰巳は、いわばマンガ界の開拓者だ。クー監督は「マンガというのはかつて、子どもを対象にしたものだった。それとは一線を画す大人向けのものを作りたいと、辰巳先生は劇画を編み出したんだ。辰巳先生なしには、手塚治虫さんが『ブラックジャック』や『アドルフに告ぐ』を描かなかったと思う。劇画というムーブメントがあったからこそ、手塚先生も一歩先に進めたんじゃないかと感じる。辰巳先生は、時代の先駆けというより、時代の先を行き過ぎていたんじゃないかな」と辰巳の功績を称える。

別所は、俳優として活躍するだけではなく、日本初の国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル」を主宰するなど、精力的な活動を行っている。辰巳に共感する点も多かったようで、「辰巳先生には及ばないですが、現状に満足しないで、新しいものに挑戦していく。そのスピリットはすごくわかるんです」とうなずく。「僕も常に、俳優としても人間としてもこのままでいいとは思わないから、映画祭をやったり、ラジオのナビゲーターをやったり、自分を型にはめないようにしていて。そうすることで俳優としての栄養にもなるし、こうやってエリックのような人とも出会える」。

別所にモットーを聞いてみると、「パッション、ミッション、アクション!」とニッコリ。クー監督も「それ、最高だね!僕もそれをいうようにしよう」と笑い合う。情熱的な2人が、世界に誇るパイオニア・辰巳ヨシヒロの生き方、作品に魅了されて完成した本作。是非スクリーンで堪能してほしい。【取材・文/成田おり枝】

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