イーストウッドの人生哲学を堪能できる『グラン・トリノ』―No.8 大人の上質シネマ

イーストウッド作品史上No.1興収を叩き出した『グラン・トリノ』
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今や俳優としてよりも監督としての評価の方が高いクリント・イーストウッド。そんな彼がアカデミー賞4部門に輝いた『ミリオンダラー・ベイビー』(04)以来、4年ぶりに監督と主演を兼ねたのが『グラン・トリノ』だ。

この映画は、先ごろ公開されたアンジェリーナ・ジョリー主演の『チェンジリング』(08)や、第二次世界大戦を描いた『硫黄島からの手紙』(06)のように、誰もが知る旬なスターや、わかりやすいモチーフがあるわけではない。しかし、全米ではイーストウッド作品において最高の興行成績を78歳にして更新。それほど多くの人を惹きつけた理由とは一体何なのだろうか?

イーストウッド演じる主人公ウォルトは、朝鮮戦争の帰還兵であり、息子たちから「いまだに50年代を生きている」と揶揄されてしまう偏屈で頑固な老人だ。妻にも先立たれた今、人に決して心を許さず、肉親である息子たちに対しても気に食わないことがあれば、眉間に皺を寄せ、犬のように「ウウウー」と唸る、いわば扱いにくい困ったお年寄りだ。

だが、ウォルトの生き様には彼なりの美学が貫かれ、孤高の西部劇ヒーローとして男の美学を表現し続けてきたイーストウッドの人生をも彷彿とさせる。そう、長い映画人生を歩み、80代を目前としたイーストウッド自身がまるで役に乗り移ったかのようなのだ。

そんな偏屈老人ウォルトが何よりも大切にしているのが、72年製のビンテージ・カー“グラン・トリノ”だ。半世紀以上もフォードの自動車工場に勤めた彼にとって、“グラン・トリノ”は自分の息子のような存在であり、ウォルトが人生で一番輝いていた時代の象徴でもある。そして、この“グラン・トリノ”が、モン族の少年タオ(ビー・バン)との出会いをもたらし、偏見と固定概念に凝り固まったウォルトの人生を大きく変えていく。

最初は拒否していたものの、周囲とうまくなじめず、将来進む道を見出せずにいるタオに似たものを感じたウォルト。時代に取り残され、人生の最終章に差しかかった彼が、タオを一人前の男に育てることで生きる喜びを取り戻し、見違えるように変わっていく姿は、我々に胸を震わせるほどの感動をもたらしてくれる。不安定なこの時代に生きる人々に、「人生は捨てたもんじゃない」と勇気を与えてくれるのだ。

映画の後半、不良たちの争いに巻き込まれたタオを救うため、ウォルトはある決断を下す。そこからは己の正義を貫くウォルトの強い意志と男の美学ともいえる人生哲学がくっきりと浮かび上がってくる。この作品を最後に「俳優業の引退」を宣言したイーストウッドの人生に対する答えと決意表明が込められているようで感慨深い。

長い人生、辛いこともあれば、楽しいこともある。それを身をもって体験してきた大人だからこそ味わえる上質な人間ドラマと、イーストウッドの俳優人生をかけた名演を、ぜひスクリーンで堪能してほしい。【ワークス・エム・ブロス】

■『グラン・トリノ』は4月25(土)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー

【大人の上質シネマ】大人な2人が一緒に映画を観に行くことを前提に、見ごたえのある作品を厳選して紹介します。若い子がワーキャー観る映画はちょっと置いておいて、分別のある大人ならではの映画的愉しみを追求。メジャー系話題作のみならず、埋もれがちな傑作・秀作を取り上げますのでお楽しみに。

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