甲斐よしひろ×三島有紀子「よろめきながら生きること」

甲斐よしひろと三島有紀子監督が対談
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甲斐バンドの楽曲×青山真治、榊英雄、長澤雅彦、橋本一、三島有紀子という5人の映画監督のコラボレーションによる短編映画集『破れたハートを売り物に』。本作品は2月28日(土)にワンナイト特別上映され、映画本編と甲斐バンドの生ライブ演奏・中継という形で、全国14館の劇場で公開される。この興味深い化学反応をとても楽しんだという甲斐よしひろと、その中の1篇『オヤジファイト』を手掛けた三島有紀子監督を直撃!

三島監督がチョイスした曲は、「らせん階段」。この曲を用いた短編映画『オヤジファイト』は、妻に見放された中年男・片岡正道(マキタスポーツ)が、復縁を願い、アマチュアボクシングのリングに立つという物語だ。

三島監督は「らせん階段」について「“よろめきながら生きていく”というフレーズがすごく好きです。“ただ、落ちていくだけ”というのも、まさに、私のなかで生きていくことは、そういうことだと思っていて。人生を表している曲だから、すごく好きな歌なんです」と思い入れを語る。

その選曲が新鮮だったと言う甲斐。曲のアルバムをリリースした76年について「やっぱり若い時は、格好つけてるようなところがあって、ちょっと悩んでいたんです」と激白。「でも、あの曲は、全部赤裸々に表現しようと決めた瞬間に作った曲。自分の体を切って赤い血を出すことが表現だとしたら、どこまでやったらベストなのかを悩んでいた。でも、そんなことで迷ってる場合じゃないんだと踏ん切って書いた曲です」。

三島監督はそのことに共感し「我々の世界でよく言う、どれだけケツの穴まで見せられるかってことですね。どこまで格好つけずに、自分をさらけ出せるかって話をよくします。確かに、それだけ出したものは、確実に心に届きます。私は、まさにその赤い血にやられたんですね。その話を今日聞けて、すごくうれしいです」と感激。三島監督は山嵜晋平と共に脚本を手掛けたが、甲斐はそれを読んだ時、いたく感動したそうだ。「ジンときて、びっくりしました。そんなことって、あまりないので」と興奮しながら感心する。

三島監督は、「作りたい作品を自由に作れるこの企画が、とても魅力的でした。また撮影前に、脚本の打ち合わせをやるかどうかという話になった時、甲斐さんが『僕の表現した歌を聴いてくれてるんだから、何もぶれることはないはず』と言ってくださったと聞いて。クリエイターとして本当に素敵だなと思いました」と語る。

甲斐は照れながら「そんなにきっぱり言い切ったかどうかは記憶がないのですが、それに似たようなことは言った気がします」と笑みをこぼす。「いろんな表現者がいるから、僕はそういう人たちを見ながら、その人たちの芸を受けて喜んで生きていきたい。だから、今回は5人の監督がどんな作品を作ってくださるのか、楽しみにしていました」と言う。

『しあわせのパン』(12)から、『繕い裁つ人』(公開中)まで、これまでは男臭い映画とは全く毛色の違う映画を撮ってきた三島監督。でも、実はボクシング好きで男前な面があった。「撮影した石橋ジムは、私が実際、通っていたジムなんです。助監督時代になかなか映画が撮れなくて、悶々としているなかで、ボクシンジムに通ってました」と告白。

甲斐は驚きながらも「三島さんがやると、ボクササイズといったような甘っちょろい感じがしないです。相手のつま先を踏んででも倒すという感じで。実は僕も2年近くやっていたから。徹底的に倒したくなりますよね」と食いつくと、三島監督は「あれ、やるとカチンときます。闘争本能がものすごく呼び起こされるのがボクシングですから」とうなずく。

三島監督は、「何で三島有紀子が『らせん階段』で『オヤジファイト』なんだ?とよく言われますが、人間はもっと多面的です。今回はなおさら、甲斐さんの歌が間にあり、そこで何を生み出せるかというと、当然違うものになると思います」と作品作りに対する考えを語る。

マキタスポーツの熱演についても絶賛する2人。三島監督が「キャスティングは大事。生き様が結局、見えてしまうから。どういうふうに生きてきた人なのかという歴史を、どれだけ表現できるかってところです」と言うと、甲斐も「今回、三島さんが描いたマキタスポーツさんを見て、世間の絶対評価は変わると思います。非常にドキドキ、ワクワクするような映画に仕上がってますから。映像美も含めてね。特にラストシーンが素晴らしい」と称える。

三島監督は、安堵したように「スタッフみんなで、手作りで作った映画なんです。だから、最後のシーンなんかは、みんなでものすごい集中力で撮っていました」と振り返る。そのシーンとは、マキタスポーツ演じる片岡が、路上でいきなりボクシングを始める熱いシーンだ。

三島監督はこのシーンの裏話を話し始めた。「実は酔っぱらいが絡んで来たんです。でも、素晴らしかったのは、マキタさんが酔っ払いに対して、役として対応したことです。マキタスポーツではなく、片岡正道として。私はいじわるだから、ずっと撮影を止めずに見ていたんですが、あのマキタさんを撮れたのは光栄でした。私は、”見えない敵”と戦ったり、それは”自分”だったりもするんですが、それこそよろめきながら、何度も倒れながら生きていく姿が美しいと思いたいんですね、きっと」。甲斐も「僕もそう。人の美しい瞬間がどこかというと、僕も逆境に陥った瞬間、踏み込もうと決意する瞬間だと思っていますから」と力強く語った。

話を聞くと、ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンなどを聴いてきたという共通点も同じだという2人。甲斐バンドの音楽にも触れてきた三島監督が、『オヤジファイト』を撮ったのは、まさに必然とも言える出会いだったよう。是非、本作をはじめ、『破れたハートを売り物に』という映画と音楽のコラボレーションを体感してみてほしい。【文/山崎伸子】

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