路上生活者との交流から人間関係の本質を学ぶ『路上のソリスト』―No.13 大人の上質シネマ

路上で暮らす孤独なソリストがコラムニストと出会う
  • 路上で暮らす孤独なソリストがコラムニストと出会う

かつては名門ジュリアード音楽院に在籍し、将来を嘱望されていた天才音楽家ナサニエル・エアーズは、なぜ路上生活者に身を落としたのか?――

その謎を解き明かしながら、彼と固い絆で結ばれるコラムニストの交流を描いた『路上のソリスト』は、LAタイムズの記者スティーブ・ロペスによる「弦2本で世界を奏でるヴァイオリニスト」というコラムを原作とした実話ドラマだ。

ときに実話であることを売りに観客の涙を無理やりしぼり出させようとする映画があるが、本作は、ともすればお涙頂戴になりそうな題材を、美化することなく、生の人間のぶつかり合いとして描いているのが潔い。

そもそもジャーナリストであるロペス(ロバート・ダウニー・ジュニア)にとって、路上暮らしのナサニエル(ジェイミー・フォックス)は連載コラムの“ネタ”であり、いわば“食いぶち”に過ぎない。その単なる取材対象に、オーケストラを紹介したり、練習場所を提供したりしようとするロペスの行為自体、偽善ととられかねない。しかし、映画はそんなシビアな現実からも逃げることなく、ナサニエルら路上生活者たちの現状を映し出していく。それと同時に、統合失調症という病を患うナサニエルと本気で向き合いつつも、自分の行為が本当に彼のためなのか葛藤するロペスの複雑な心情がまざまざと描き出され、観る者の心は激しく揺さぶられる。

そして、もしこれが感動を安売りするような映画であれば、ロペスの善意によって劇的に変わっていくナサニエルの姿が描かれるのだろうが、ここで描かれるのは、ナサニエルとの本気のぶつかり合いを通して変わっていくロペスの姿であり、そんなロペスの姿を通して我々は、人間と本気で向き合うことの難しさと、人にとって本当の幸せとは何かということを深く考えさせられるのだ。

人間関係が希薄になったといわれる今の時代、何を信じて、何を疑うべきか、戸惑うこともあるだろう。そんな時代だからこそ、人間関係のあり方とその本質を描いた本作は、ぜひともスクリーンで見て欲しい1本なのだ。【ワークス・エム・ブロス】

■『路上のソリスト』は、5月30日(土)よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次ロードショー

【大人の上質シネマ】大人な2人が一緒に映画を観に行くことを前提に、見ごたえのある作品を厳選して紹介します。若い子がワーキャー観る映画はちょっと置いておいて、分別のある大人ならではの映画的愉しみを追求。メジャー系話題作のみならず、埋もれがちな傑作・秀作を取り上げますのでお楽しみに。

キーワード

関連記事

このニュースで紹介された映画

[PR] おすすめ情報