【シン・ゴジラ連載Vol.12】「全てはプリヴィズ(動く絵コンテ)のままに」

2016年7月29日に満を持して公開され、大ヒットを記録した「シン・ゴジラ」。クオリティを追い続けたスタッフたちの熱意と、庵野秀明監督のこだわりなくしてこの傑作は誕生しなかった!!

ラジオドラマと動く絵コンテ

筆者は「ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ」という公式メイキングブックの製作に参加させていただくとういう好機を得た。ゆえに製作準備のため、3月中旬にラッシュを拝見、公開の約4ヶ月前に本作のほぼ全貌を目撃してしまったわけである。当然、厳しい箝口令が敷かれており、家人にも明かせぬ大秘密を抱えることとなってしまった。帰路の中央線の中でも「みんな、聞いてくれ!今度のゴジラは「在来線爆弾」だ!この電車が爆弾になるぞ!」と叫びたくなる衝動を必死にこらえるのだった。

自分が拝見したのは、セミオールラッシュというもので、俳優の演技や実景などは撮了していたが、まだ肝心のCGを含むVFXパートは完成しておらず、プリヴィズと呼ばれる動画で構成されていた。プリヴィズとは、CG作成の際にレイアウトや動きの指示をするための言わば「動く絵コンテ」のようなものである。モノトーンの背景の中、荒いCGのゴジラが暴れ回る。中にはストーリーボードそのままのカットも散見された。一部のBGM(伊福部音楽!)とご存じのテロップは入っていたものの、セリフ以外は、効果音もほとんど入っていない状態であった。にもかかわらず、その衝撃は十分に伝わり、取材への意欲を駆り立てられたわけだが、同時に完成するのか?という不安も禁じ得なかった。

このラッシュの母体になったのは、ラジオドラマ版と呼ばれる奇妙な動画である。庵野監督が書き上げたシナリオのボリュームが、あまりにも長大であったために東宝サイドは「3時間を超えるのでは?」と不安がったそうである。そこで彼らを安心させるために、声優さんにセリフを(早口で)読ませて、まさにラジオドラマ風の音声を作成。それは見事に90分以内に収まったそうである。これに役者の演技の間などを考慮しても120分以内には収まるという計算である。

余談だが、この時点で「宇宙大戦争」マーチは使用されていたというから、監督の執着のほどがうかがえる。

このラジオドラマに、シナリオのト書き部分や、出来上がった絵コンテなどを撮影した画像を加えて、映画全体の流れを検討するための動画、いわゆるライカリールを作り上げていったわけである。

VFXスタッフの苦闘

映画「シン・ゴジラ」より
  • 映画「シン・ゴジラ」より

さらにこの動画に「動く絵コンテ」プリヴィズが加えられていく。実際の地図データなどを取り込んで背景を構築、その前にゴジラや自衛隊のメカ、背景のビルや家々など、おおまかなパーツを並べて、3DCGで構成された仮想の特撮ステージを作り上げるのである。この空間でヴァーチャルカメラを使って監督自らが細密に位置決めをしたという。たとえ色や音がなくても、そこには監督自身が設計した、ほぼ完成した「画」が存在していたのである。

このプリヴィズはVFXだけでなく、本編の会議シーンなどにも適用され、事前に会議室のセットを取り寄せ、綿密な撮影プランが練られたそうである。あのズラリと並べられたマイクと並み居る閣僚の絶妙なバランスは入念にプリヴィズ上で検討されたものなのだ。

このプリヴィズを実際の撮影やVFXに置き換えていけば、よいわけなのだが、事はそれほど簡単にはいかなかったようだ。

VFXチームの作業は難航を極めており、実際に取材許可が下りたのは6月の初旬である。勇んでインタビューをするものの、どのスタッフも疲弊気味。「あなた方は、もう終わったような口調でインタビューされてますけど、まだ監督のチェック中ですから…」と明らかに迷惑顔の方々もいらっしゃった。

それもそのはず、当初VFXスタッフは、モノトーンのプリヴィズに命を吹き込む意気で作業に臨んだという。クオリティアップを目指すのが、クリエイターの信条であろう。だが、チェックの際の庵野監督の言葉は厳しく「プリヴィズどおりにやってください」の一点張りだったそうである。様々なパートの方にお話を伺ったが、この「プリヴィズどおり」は必ずと言っていいほど出てくるワードだった。

よかれと思って追加した効果は全否定。しかもミリ単位の位置ズレ、秒単位のタイミングのズレも見逃さなかったというのだから、恐ろしい。

仕舞いには「自分の表現したいものははすでに結実しているのだから、間に合わないのであればプリヴィズのまま公開してもいい」と言い出す始末だったという。恐らく周囲のスタッフの脳裏にはTV版「エヴァンゲリオン」最終回がよぎったに違いない。

後に「厳重な秘密主義で試写会もわずかであった」と言われたが、実際はそれどころではなく、ギリギリまで完成への戦いが展開されていたのである。

ものづくり精神が超兵器に勝る

こうして完成したVFXシーン、やはりクライマックス「ヤシオリ作戦」でのN700系新幹線(無人運転)と無人在来線爆弾(E233系・E231系電車流用)の活躍は素晴らしいものがある。このシーンでよく耳にするのが「ゴジラによって架線は寸断されているので、電車が走ってくるのはおかしい!」というご指摘である。

実は裏設定で各列車の後尾にディーゼル機関車が接続され重連運転で推進しているというのである。これは「ヤシオリ作戦」を担当したプリヴィズチームから伺った談話で、実際に推進列車も作る予定だったが、画面には映らないため割愛したというのだ。

核投下までのタイムリミット…わずか2週間。その間に推進用のディーゼル車の台車を新幹線の軌間に合わせるため奮闘した整備スタッフがいたはずである。さらに、列車爆弾を最高スピードで突入させるために、被曝の危険も顧みず、保線作業するチームもいたはずである。

東京駅舎に倒れ伏したゴジラに対して殺到する建機の群れ。コンクリートポンプ車の30メートル級のブームを走行中に展開させるという神業を見せるオペレーターもいたはずだ。ポンプ車が接近するために駅前ロータリーの瓦礫の山を短時間で撤去してしまうホイルローダーの手練れの操縦士だっていたはずである。

画面には映っていないが、作戦成功のために邁進した人々がオレには見える!ゴジラを封印したのは、核ミサイルでも、東宝超兵器でもなく、日本の誇るものづくりの精神だったのである!と、思わず熱い妄想が膨らんでしまうのであった。

最後に

「ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ」。遅れに遅れて11月3日「ゴジラの日」に発売予定であります。

「ゴジラ第1形体はどんな格好なの?」「エンドクレジットにあった「アニマトロニクス」って?」「CG以外の実写特撮シーンって、どのくらい?」「ラストで、ゴジラの尻尾に湧いてたヒューマノイドは?」――みなさまのこんな疑問に答えるだろう最終兵器となることを、筆者自身も祈っております!乞うご期待!

【木川明彦(きかわあきひこ)●図解と創作を生業とする「図解博士」。アニメ・特撮・ゲームなど様々な書籍・雑誌に携わってきた。近年は「特撮博物館」図録、「パシフィック・リム」パンフレット、「ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ」に参加】

電子書籍版週刊東京ウォーカー+(プラス)にて連載!
■シン・ゴジラWalker価格:本体2600円(税抜)発行:KADOKAWAカドカワストアで書籍を購入!

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