45年間“転がり”続けるロックバー「フルハウス」。一期一会の出会いに酔いしれた夜

『ロックバー・ダイアリー―「フルハウス」の70年代叙情詩』(フルハウス45周年記念ブック制作チーム:編/啓文社書房)
  • 『ロックバー・ダイアリー―「フルハウス」の70年代叙情詩』(フルハウス45周年記念ブック制作チーム:編/啓文社書房)

「30過ぎは誰も信じるな」

 かっこいいロッカーは20代で死ぬ――時代を問わず、ロック好きの少年少女(私自身を含む)には、本気でそう信じる時期がある。1969年、ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズの死を皮切りに、70年にジミ・ヘンドリクスとジャニス・ジョプリン、71年にはジム・モリソンが他界。天才的・伝説的なロッカーが立て続けに亡くなったうえ、4人とも27歳のときに死亡したと聞けば、冒頭の「中二病」的な発言もそれなりに信憑性を帯びるというものだ。

 1970年代前半は、ロックという音楽のジャンルが爆発的に普及・発展した時代。アメリカ・イギリスに限らず、日本でも人気となったロックは、ヒッピー文化や学生運動などと共振しながら、若者のための音楽として広まっていく。結果としてロックは大多数の大人たちから煙たがられたようだが……。

 そんな1971年、千葉県・稲毛駅前にロックバー「フルハウス」(正確にはその前身となるお店)がオープン。2016年で45周年となるこのお店にも、音楽に夢中で尚且つ「やんちゃな」学生たちが出入りしていた。

 本書『ロックバー・ダイアリー―「フルハウス」の70年代叙情詩』(フルハウス45周年記念ブック制作チーム:編/啓文社書房)には、70年代当時の写真や、フルハウスのマスター・高山眞一氏と同店にゆかりのあるゲストによる対談などが収められている。

 対談では「誰々はいま何をやっている」という同窓会的な会話や、ビートルズやストーンズ、クリームといったビッグバンドによる公演の感想などが語られている。また、個人的には直接会って詳しく話を聞きたい、最近の来日公演の感想(1941年生まれ・75歳のボブ・ディランはいまだに現役!)もあり、貴重な証言が盛りだくさんだ。

 自称洋楽ロックファンとして、こんなうらやましい70年代トークに感化されないわけがない! 私は実際に「フルハウス」に行ってきた。

 お店に到着したのは20時頃。入って左手のカウンターには男女2人、正面のテーブル席には5~6人のご婦人たち。マスターは忙しそうで構ってもらえず、入り口付近でぼんやりしていると、テーブル席の方々によってカウンターに通された。聞けばその日お店にいた人々は皆、常連さんなのだという。

「音楽をやられているんですか?」

 席について飲み物を注文し、ひと口すすったタイミングで、カウンター席の男性(50代くらい)に、こう声をかけられた。私は、音楽は好きだが楽器はからっきしだと答え、同じ質問を返すと、ドラムをやっているという。なんだろう、この仲間意識は……。

 その後、好きなバンドの話になった。あれこれ挙げていき、クイーンの名前が出ると、マスターはクイーンのベスト盤を店内に流してくれた。フルハウスでは、マスターに頼めば好きな曲をかけてもらえるのである。

 クイーンの名曲は数あれど、「We Will Rock You」を聴いたことがない人はいないだろう。足踏み2回に手拍子1回の繰り返し。この曲が始まると、テーブル席のご婦人方がリズムに合わせて調子を取り始め、店内の人々全員でひとしきり盛り上がった。なんだ、この仲間意識! フルハウスがある稲毛駅まで、自宅から片道1時間半以上かかるのだが、私はまた来ようと心に決めた。

 ほかにも、70年代前半に行なわれた、レッド・ツェッペリンの来日公演の話は強烈だった。なんでもこの方、その来日公演の現場にいたそうで(うらやましすぎる!)、ドラムの音が半端じゃない、と興奮気味に話してくれた。しかも、ツェッペリンの来日公演のレアな音源を送ってくれるという。連絡先を交換すると、その夜のうちにデータが届いた。

 帰宅後、さっそく例のライブ音源を聴く。余りに生々しい観客の手拍子の音が、お店でのひとコマを彷彿させる。足踏み2回に手拍子1回を繰り返す「We Will Rock You」のシンプルで力強い、あのリズムを。バンドのライブ演奏と観客の熱狂ぶりがその時々で異なるように、1分に満たないあの瞬間の空気感を再現することはできない。代わりに今度は、また別の出会いが生まれるはずだ――。

 そう思わせてくれるフルハウスが魅力的であり続けている要因のひとつは、特定のジャンルに傾倒しない、マスターの柔軟な選曲だ。流行を追うでもなく、自分の趣味に没頭するでもなく、その場に最も合う曲をかける。もしマスターの選曲センスがなかったら、このお店は続いていないだろう。私が思うに、ここの常連さんたちはきっと、人や音楽との偶然の出会いを求めているのだから。開店45周年を迎えたフルハウス。願わくはこの先50年、60年と続けていってもらいたい。

文=上原純(Office Ti+)

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