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“中の人”に聞く!『時をかける少女』10th Anniversary Blu-ray BOXの魅力と「今だから言える10年前の話」

東京ウォーカー(全国版) 2016年11月18日 18時00分 配信

今年2016年7月15日に公開から10年を迎えた細田守監督の『時をかける少女』。11月25(金)には「10th Anniversary BOX(Blu-ray)」が発売される。

今回は特別企画として、同作の製作に関わり、現在は株式会社KADOKAWAの代表取締役専務である井上伸一郎に、当時の思い出などを振り返ってもらった。

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――公開10周年ということで、井上さんと『時をかける少女』との関わりについて教えてください。

井上「今から12年前、マッドハウスの当時の社長・丸山正雄さんから突然連絡をいただきまして。その時は、“細田守さんを監督に迎えて新作アニメを作りたいので、その相談をしたい”というお話でしたね。

映画の公開は10年前なので、その2年前に「細田守さんって知っていますか?」といった感じでご連絡いただいいて、「もちろん知っています。非常に注目している方ですよ」とお答えしました。今は無き新宿の「談話室 滝沢」という喫茶店でお会いして、『時をかける少女』をやりたいんだという話も、その時にいただきました。細田さんと『時をかける少女』という組み合わせが面白いなと思ったのと、私自身が筒井康隆先生の原作小説が好きだったことも手伝って即決しました。

ただ、制作スタジオのマッドハウスに対して、ひとつだけ条件として、齋藤優一郎さんをマッドハウス側のプロデューサーにして欲しいという話をさせていただきました。それは何故かというと『X』というCLAMPさん原作のTVアニメシリーズをマッドハウスと制作したのですが、齋藤君が非常にいい仕事をしてくれたんです。その働きぶりを見ていて、彼だったら予算面だけでなく作品の内容に対しても誠実に向き合ってくれるだろうなという気持ちがありました。

結果的に『時をかける少女』がきっかけで細田さんと齋藤さんがアニメスタジオ・スタジオ地図を設立し、その後、『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』が生まれた、というところに繋がりましたね」

――そのあたりが細田作品の原点だったんですね。ストーリーなどに関するエピソードで、思い出深いものはありますか?

井上「シナリオの執筆に時間がかかりましたね。最初の頃は、同じ一日をずっとやり直すような話だったんですね。記憶している限りでは校庭にあったサッカーのゴールが倒れてケガをしたり、その真相を探るためにタイムリープするといった話で、「どうもスケールが小さいな」と思っていたら、細田さんが「これ、一から作り直します」って最初から作り直して、今の『時をかける少女』の原型ができたんですね。思い切りのいい監督だと思いました。

筒井康隆先生の原作小説はジュブナイルですので、恋愛要素が最後の最後じゃないと出てこないんです。1983年に作られた原田知世さん主演の実写映画は、原作では中学3年生だった登場人物達の年齢を高校生にシフトしたので恋愛要素が強くなっているんです。“男性ふたり・女性ひとり”という構図はそのままにしながらも、細田さんがこだわっていたのは、津田功介というキャラクターのほうを未来人に見せるための工夫というか、ミスリードさせようという部分ですね。初期のシナリオはそういう色が濃かったですね。

当時、私は角川書店の社長に就任したばかりの時だったので、角川歴彦会長にも意見を求めました。会長からは「やっぱりタイムリープする時に具体的なアイテムが欲しい」というアドバイスを受けて、あのクルミに見えるアイテムが登場しました。私からは、千昭と真琴の絆を象徴するようなものを作ってもらえませんかね、というメモを渡しました。それがあの絵になったんじゃないかと思います。細田さんに絵というキーアイテムを作ってもらったことによって、とっても話が膨らんだなと思いましたね」

――確かに、現在と未来の話が明確に繋がりましたよね。

井上「スケールの大きな話になったなあという感じがしましたね。現実的な話なんですけど、当時考えていたのは「この作品はヒットを飛ばして必ず塁に出る」ということでした。上映館数も非常に少ないスタートで、最初から公開規模を大きくすることももちろんできたとは思うんですけども、それよりもまず確実に観客が映画館に入ってくださるか、そして観てくださった方々からの評価を高めたい、ということをとにかく重視しました。

ですから、角川書店の渡邊隆史プロデューサーなんかとは電話でケンカしたりもしました(笑)。「こんな館数でいいと思っているんですか!」とか言われて。いろいろやり合ったりしましたね(笑)。でも、映画館に関してはテアトル新宿を中心に、きちんとしたファン層を作ることができたと思います。

今年開催された第29回東京国際映画祭で細田監督作品の特集上映があった際も、細田さんはトークショーで「その時に支えてくださったファンの方々がいたから、今の広がりがあった」と言ってくださったので、そのへんはご理解いただいていたのかな、というような気がしますね」

――井上さんからご覧になった、細田監督はどんな方なのでしょうか。

井上「私は、細田さんに作家になって欲しかったんですよね、“原作者”に。『時をかける少女』以降、オリジナルのアニメーションを作っていくと決めたのなら、やっぱりあなたはしっかり小説の原作を書いて、いわゆる監督という他に『原作者:細田守』になるべきでしょう、とアドバイスさせていただいて。

最初はなかなか抵抗があったようで、口説くのに時間がかかったんですけども、最終的には『おおかみこどもの雨と雪』の時に小説版を書いてくださいましたね。文章も非常にシンプルで、奇をてらわない、装飾過多な語句とか体言止めをあまり使わない、きちんと誠実な書き方をされる方なので、小説家としても素晴らしい作品を残していくと思っていました。作家としてはまだ『おおかみこどもの雨と雪』と『バケモノの子』の2作ですけど、彼に原作者、小説家としても生きていって欲しいな、と思っていた私の願いは実現できたので、それはよかったかな」

――細田監督の次回作も期待していらっしゃいますか?

井上「そうですね。次の新作のほうがかなりチャレンジャブルな内容なんですけど、ある意味、普遍性を最も感じさせる作品になる可能性があるので、大変楽しみにしていますね。今のアニメ作家で、あの題材を表現しようと思う方はいらっしゃらないと思うので」

――筒井康隆先生の原作小説や原田知世さん主演の実写作品と比較すると、大胆な解釈の変更があったかと思いますが、このアレンジの部分について、井上さんはどう感じましたか?

井上「最初の頃から、原作とか映画をそのままやるつもりは細田さんにはなかったですね。我々もやるなら『時をかける少女』という名前なんだけど、新しい物語があるべきだなと思ったので、そのへんは全くぶつからなくて、そのままやりましょうということになりました。最初にごくごく簡単な企画書とプロットを原作者である筒井康隆先生にお持ちして、アニメオリジナルでやらせていただきますという形で。そこからストーリー開発に入って、シナリオは苦労しましたが、コンテまでバッとできて。我々の中では「いい絵コンテができたな」「これいいぞ」みたいな感じで盛り上がっていました。

そこでできあがったものを筒井先生にお送りして、ちょうど11年前ですね、公開の前の年の6月に横溝正史ミステリ大賞贈賞式のパーティーの控え室で筒井先生にお返事をいただくことになっていて。その場で「…先生、いかがだったでしょうか?」ってお伺いしたんですが、もう役者なんですよね、筒井先生は。「うーん」って唸って「原作と全然違う!」って。もうこっちは真っ青ですよ(笑)。もう絵コンテできちゃっているのにこれでダメだったらもうダメだ、みたいな感じで待っていましたら「原作と全然違う!…のがいい」って(笑)。さすがプロの役者ですね(笑)。

でも、筒井先生にとっても、当時からそうでしたけど「本当に孝行娘なんだよ、この小説は。何度もお金を稼いでくれる」っておっしゃっています(笑)。そういう意味ではご快諾いただきました。そしてアニメ映画では“魔女おばさん”こと芳山和子が重要なキャラクターとして登場することで原作小説との橋渡しをしているんですよね。彼女は主人公のメンターというか導き手的な役割で登場しています」

――和子の登場は、原作ファンにとっても驚きと喜びを与えましたよね。主人公の叔母というポジションなのも、とても素敵だと思いました。

井上「細田さんが演出を担当されたTVアニメ『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』の第40話「どれみと魔女をやめた魔女」に登場する、ミステリアスな女性・佐倉未来(CV:原田知世)のイメージを受け継いでいるキャラクターなんですけど、大変重要な存在でしたね」

――最後に、『時をかける少女』 10th Anniversary BOXについて、井上さん視点からのオススメポイントを教えてください。

井上「何と言っても貴重な資料の数々ですよね。同梱している『時をかける少女 ARTBOOK』も、2007年8月にも『時をかける少女 ARTBOOK〜山本二三と絵映舎の世界〜』が発売されているんですけど、そこに新しい作画監督の青山浩行さんや細田監督のインタビューが入ったり、貞本義行さんの10周年おめでとうのメッセージイラストが掲載されたりと、まったく新しい本になっています。細田さんの新規インタビューなども載っているので、これは貴重ですね。

あと、AR(録音)台本も合本になったものが同梱されますし。映像的にも特典が本編プラス英語字幕とかね。ほかにもパッケージにもちょっとした仕掛けがあったり、結構凝っています。そういう発見もぜひしていただきたいですね」【ウォーカープラス編集部/浅野祐介】(C)「時をかける少女」製作委員会2006

時をかける少女(2006)

2006年7月15日(土) 公開

筒井康隆の同名小説をアニメ化。主人公の真琴の声優には、数百人の中から選ばれた新人を起用し、フレッシュさを出した。過去を変えるごとに混乱を増す奇妙なラブ...

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