人恋しくなる夜のおともに。同性、兄弟……「誰かを想うこと」を丁寧に描いた『あにいもうと』がせつなすぎる!

『あにいもうと』(白泉社)
  • 『あにいもうと』(白泉社)

 誰かを好きになる、誰かを大切に想う。その気持ちにルールやマニュアルなんて存在しない。だからこそ、時に切なく、時に苦しくなってしまうのだろう。

 ビッチなツインテ美少女に翻弄されるサラリーマンの姿を描き、話題を集めた『ベルベット・キス』(竹書房)。その作者であるハルミチヒロさんの新作は、さまざまな関係において「相手を想うこと」にフォーカスした、読み切り短編集だ。それが12月22日(木)に発売された『あにいもうと』(白泉社)である。

 表題作である「あにいもうと」は、結婚間近の兄とそれがやけにおもしろくない妹とのすれ違う感情を浮き彫りにした物語。13歳の理央は、兄の婚約者・桂が嫌いで仕方がない。桂を混じえた食事会にも参加せず、しまいには家出をする始末。「あんな女知らない」「あんな女にデレデレするおにいちゃんも知らない!!」。理央の根底にあるのは、大事な兄を奪われてしまったという感情なのだ。

 しかし、そんな理央に一番理解を示したのは桂。彼女は理央の複雑な胸中を察し、歩み寄ろうとする。そんな桂を理央は受け入れられるのか――。

 たとえ家族でも、ずっと一緒にはいられない。成長し環境が変われば、その関係性だって変わっていく。それを13歳の少女が受け入れるためにあがく姿は、とても涙を誘う。

 巻頭に収録されている「ガールフレンド」、そして巻末の「かわいいひと」は「同性への想い」に焦点をあてた秀作だ。

 「ガールフレンド」の舞台は女子校。そこでイケメン女子として慕われている主人公が、少し陰のある同級生に惹かれていくさまが描かれている。2人の真っ直ぐな姿は、読み手に青春時代を思い起こさせるに違いないだろう。

 この「ガールフレンド」が思春期の「陽の部分」を描いた作品だとするならば、「かわいいひと」は「陰の部分」を鋭く切り取った作品だ。

 女の子並にかわいい男子高生・要は、クールな女子高生・つばめのバイト先にいるイケメンに憧れを抱いている。毎回つばめに撮影を頼みこんで、その写真を見ては満足する毎日。ところがある日、そのイケメンが要に会いたいと言い出したことから、物語は動き出すのだが……。この作品で描かれているのは、「相手へのいじわるな気持ち」。つばめが願うのは、要が傷つきボロボロになること。「嫌なやつだな」という自覚はあるものの、そんなモヤモヤした気持ちを打ち消すことができないのだ。それは、つばめが要に対して、「嫉妬心」を抱いているから。好きだけど、いじわるしたい。好きだけど、失敗してほしい。誰もが一度は抱いたことがあり、けれどなかなか認めたくない負の感情。それを繊細な筆致で表現している。

 その他、“顔だけはいい”イケメンのいとこを持つ中3女子の胸中を描いた「春になったら」、母親がかけた魔法のせいで一線を越えられない15歳のカップルを追う「魔法使いの娘」など、良作が満載。どの短編も言葉にするのが難しい感情をすくいあげており、共感必至だろう。人恋しくなる季節、ぜひ本作で「相手を想うこと」に触れてみてほしい。

文=五十嵐 大

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