忙しさは人を「殺す」。多忙な社会で生き残るために必要なたった1つの考え方

 2016年、厚生労働省は過労死等防止対策推進法に基づき、「過労死等防止対策白書」を作成した。過労死は英語辞典にそのまま「Karoshi」と表記されるほど日本特有のもので、過労死白書が作成されるのは日本のみならず世界的にも初めてのことである。約2000人もの人々が仕事を理由のひとつとして自殺する今の日本において「過労死」という問題は早急に解決しなければならない重大な問題といえる。この重大かつ困難な問題を解決する考え方を提示する1冊の本をご紹介したい。それが『自分の時間を取り戻そう―――ゆとりも成功も手に入れられるたった1つの考え方』(ちきりん/ダイヤモンド社)である。

 この本には4人の「時間に追われた人」が登場する。出世で首の回らなくなった会社員の正樹、なんでも完璧にこなしたいと願う主婦のケイコ、断れないがゆえに必死に目の前の仕事をこなし続けるフリーランスの陽子、どんなに長時間働いても仕事が終わらない起業家の勇二だ。どこにでもいそうなこの4人に対して著者はあるアドバイスをする。それが「生産性を上げなさい」というものである。ここにいう「生産性」とは、「『自分が手に入れたいもの』をいかに少ない投入資源で手に入れられたか、という指標」だという。たとえば、家族で過ごす時間を最も手に入れたいと願っているケイコは、家族のいない時間だけ働き、その得たお金で家事の外注サービスを依頼すればいいという。そうすれば家族と過ごす時間や仕事のやりがいも得られるし、自分にとって重要ではない家事にかける時間は大幅に減るというわけだ(仕事によって得られた収入はすべて家事の外注サービスに消えるが、やりがいが得られるのだから構わない)。このようにして4人は生産性を意識することで、仕事をホドホドにする術を学び、自分の時間を取り戻すことができる。良いことづくめだ。

 私を含め、今の日本の勤務スタイルに慣れてしまっている人には、この本に書かれていることの半分以上は「非現実的な理想」と受け取れるだろう。どれだけ強く「こんなの無理だ……」と感じられるか、または拒絶反応を示すかでワーカーホリック度をチェックすることさえできるかもしれない。たとえば「仕事に優先順位をつけよう」というならまだしも、著者は「すべての仕事をやる必要はない、生産性の低い仕事(大した成果の得られない仕事)は切り捨てろ」と豪語する。このような考え方を受け、やらないと判断された仕事はいったい誰の仕事となるのだろうか、と疑問を抱いた人はいないだろうか。そのほかにもこの本には、いわゆる突っ込みどころが多く存在する。しかし、それを踏まえても私はこの本をひとりでも多くの人に手に取っていただきたい。

 この本には、もちろんハッと気づかされる点も多くある。たとえば著者が「生産性の低い仕事を切り捨てろ」というのは、重要だが難しい仕事と簡単だが取るに足らない仕事の両方を前にした人間が終わりそうな後者を先にやろうとするという人間心理を踏まえてのことだ。時間は有限なのだから後者から先にやろうとすれば前者に十分な時間が割けなくなることは間違いない。簡単な仕事から手を付け始めたところ何時間経っても肝心の重要な仕事が終わっていなかった、という経験のあった私自身はドキッとした。このような前提を踏まえると、著者の考え方にも頷けるだろう。

 もし仕事である以上、生産性の低い仕事でもしっかりこなすべきだと考えた人がいるなら、今一度考えていただきたい。切り捨てるべきなのは生産性の低い仕事なのか、それとも――労働者の命なのか。多忙に多くの人々が殺されている危機的な現状において必要なのは、この著者のような「非現実的な理想とさえ呼べるほどの思い切った考え方」なのではないだろうか。

文=藤田ひかり

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